【図解】静電気が発生?
静電気の発生の原理、仕組みを下記のポイントをメインに解説しています。
・静電気の極性、帯電とリーク、絶縁物と電気抵抗
・水分と湿度、静電気による力、クーロンの法則
・静電誘導、火花放電、コロナ放電、沿面放電
・絶縁体と導体の帯電、固体の帯電現象、摩擦帯電等
工場、現場等での静電気除去対策にご活用ください。(^_^;)
詳細は下記の文献等を参考、願います。
何故、静電気が発生?
異種の物体(固体か液体)が接触してのち分離すると静電気が起きる。両物体がもとは帯電していなくても,分離のときに電子の移動が起きて帯電する。図1.1は,2つの物体が接近し,接触し,分離して帯電する過程の説明である。
静電気は物体が2つに分かれるときに現れ,一方の物体が正に帯電するならば,他方は負に帯電する。こういった帯電は異なる種類の二物体の摩擦でもっとも典型的に見られる。現実には,物体が同種であっても,表面の汚れなどの状態の違いがあるので摩擦帯電が起きる。もともとは1つであった物体が2つに分かれるときにも帯電する。物体が電気的に中性(帯電していない)であっても,2つに分かれるときに帯電する。
2つの物体が接触していて,圧力がかかったり摩擦があったりして,そのあとに物体が分離すると静電気が起きやすいことを記憶してほしい。
静電気の極性
2つの異種物体が分離してどちらが正にどちらが負に帯電するかは,物体の材料の組み合わせで決まる。これについては,表1.1のような帯電列がわかっている。2つの物体を押しつけたり摩擦したりしてから分離して起きる帯電は,この序列で決まる。2つの物体の帯電列上の間隔が大きいければ,帯電しやすい。
分離によって物体の一方がある極性(たとえば正)に帯電すれば,他方の物体はこれと反対の極性(たとえば負)に帯電する。物体が導電性であって接地につながっていると,分離によって生じた電荷は接地へ逃げてしまうので,結果として帯電しない。ある物体が,接触または分離する相手によって正にも負にも帯電し得る。
帯電列の負の端にはテフロンやポリエチレンがある。通常、プラスチックは負に帯電する。正に帯電する材料は,羊毛や人の髪の毛のようなたんぱく質系のもの,プラスチックではナイロン(ポリアミド)である。
同じ材料でできている2つの物体でも,分離による帯電が生じる。それは,物体の表面は現実には汚れたり酸化したりしているからである。純粋かつ清浄な状態であれば表1.1の帯電列が成り立つが,大気中の実際の物体ではこれからずれることもある。
このように,物体が正か負のどちらに帯電するかは,接触・分離する相手である物体と面の状態で決まるが,日常の実際では,絶縁物が負に帯電しているのに出くわすことが多い。
静電気問題は,帯電の極性によって異なる場合がある。たとえば,静電気放電が絶縁物表面に残す傷跡は,帯電が負であると大きい。帯電の極性をいつでも区別して観察,記録することが必要である。
帯電とリーク
いままでの説明で“帯電”と書いたが,正確にはこれは電荷発生あるいは発電である。物体が持つ電荷は,大地に向かって刻々と流れる。これをリーク(漏洩,もれ)という。現実に検出される帯電の状態量は発電からリークを差し引いた結果である、よって電荷発生が大きくても,リークを増やしてやれば静電気問題は起きにくくなる。
静電気問題は古くからあったが,現代では障害や事故の原因となることが多い。
それは,絶縁抵抗が高いプラスチック材料の使用によって,帯電した電荷がリークして接地に逃げにくくなったからであり,またエアコンの普及による雰囲気の低湿化でリークが低下しているからである。
絶縁物からの電気のリークは,表面を伝わって流れることが多い。金属や導電性物体ならば,大地に結ぶ(接地する)ことで,電荷は消失する。電気抵抗の高い材料はリークが小さい。界面活性剤(帯電防止剤と称することもある)を塗布すると,物体表面のリークを大きくできる。
界面活性剤は,その分子中に親水基と親油基(疎水基)を持つ一種のせっけんである。ふつうの中性洗剤でも,プラスチック製品などの静電気で困ったときに薄めて塗布すると,効果がある場合がある。
物体自体の電気抵抗を小さくするには,カーボンブラックなどの導電性材料を混入する方法がある。静電気対策品と称する作業用の物品にはこういったものが使われている。自動車のタイヤもその例で,カーボンの微細粉を練り込んであるので相当程度の導電性を持っており,これにより自働車ボデイはふっうは接地状態にある。いすのジョイントやキャスター,プリンタなどの歯車やその軸,そして床材やマットに導電性を持つ材料を使用すると,リークが増して静電気問題に対して実効があることが多い。
絶縁物と電気抵抗
電池で電球や発光ダイオードを点けたりするとき,導体として銅線を使う。身のまわりの物のうちで,金属以外の物はだいたいのところ絶縁物であって,カーボンが導体と絶縁物との中間的な存在である。しかし,静電気を扱うときには,このようないわば動電気の世界の常識は通用しない。
大気中の物体の多く(金属や炭素以外)は,布や木をはじめ,静電気をリークする“静電気導体”である。 トランジスタやICなどを扱うの場合にはこれらを絶縁物として使用できるが,静電気の実験にはリークのほとんどない物体が必要である。そこで,静電気の立場からは,材料をその電気絶縁抵抗で次のように3種類に大別する。
・絶縁性領域(静電気をリークしない絶縁物) 1012Ω以上
・拡散性領域(中間の材料) 105~1012Ω
・導電性領域(静電気を通す導体) 105Ω以下
プラスチックは電気絶縁抵抗が高い。これはプラスチックの特徴であるが,帯電してほこりを吸い寄せたり,不都合となる場合も多い。 MOS型ICをプラスチックの袋に入れたりすると,破壊することが多い。 ICを挿しておくプラスチック・フォームやケース,袋に黒色のものが使われているのは,プラスチックにカーボッを混入して電気抵抗を下げているのである。静電気対策だけでなく,導電性のプラスチックはいろいろな用途があり,時代の花形になっている。
プラスチックのうちで静電気をリークしない絶縁物は,テフロン(ポリテトラフルオロエチレン)である。ポリエチレンやデルリン(ポリアセタール)もこれに次いで良好であり,アクリル(ポリメチルメタクリレート/PMMA)も使用できる。ポリ塩化ビニル(PVC)は添加剤が含まれているので,静電気絶縁物には適しない。ベークライトはリークが大きめで,プラスチックとしては例外である。ベークライトは静電気用の絶縁物としては使えないので,注意が必要である。
なお,静電気をリークするかどうかは表1.1の帯電列とは別であり,混同しないように注意されたい。
水分と湿度
実際の絶縁物表面のリークは水分に左右される。表面に水分があると,リークは大きく,電荷は接地に流れて消失しやすい。雰囲気の湿度が高いと,物体表面からの水分の蒸発や消失が少ないので,リークが大きく,静電気は接地に逃げやすい。ここで問題になる湿度とは,相対湿度である。
絶対湿度と相対湿度について説明しておこう。空気はある程度まで水分を保持できる。空気中に含まれている水分を重量(グラム)で表したのが,絶対湿度である。空気中の水分が限界を超えると結露する。この限界は温度によって違い,空気の温度が高くなるにつれてこの限界は大きくなる。空気に水分が含まれているとき,その水分が限界値の何%であるかを示すのが相対湿度(略称: RH)である。
空気中に水分が含まれているとき,①空気の温度(気温)が上がると,相対湿度は低下する。②気温が下がると,相対湿度は上昇し,100%になると結露する。
相対湿度とは,結露条件にどれだけ近いか,遠いかということである。相対湿度を100%から引いた値(相対湿度80%ならぱ20%)は,水の蒸発しやすさの数字であると考えてよい。この数字が20%ならば,60%よりも水は蒸発しにくく,人の皮膚からも汗が蒸発しないのでべとべとする。静電気問題の起きる固体表面も同じで,この数字が小さければ水分は表面に保持されやすいが,この数字が大きいと蒸発がどんどん進んで表面の水分が減っていくので,リークも減り,静電気問題が顕在化する。
つまり,相対湿度が低いと,表面から水分がなくなりやすく,電荷のリークが小さくなって,静電気が問題になる。 日本では梅雨の季節には湿度が高いが,冬季は湿度が低い(部屋を閉めきってスチームや電熱やヒートポンプによる暖房を使用すると室内の湿度は更に低下する)ので静電気問題が起きやすい。日本の気候は湿度が高く,相対湿度60%程度が標準とされてきた。
しかし,エアコンが普及した今日,冬には室内の相対湿峻が40%以下になるのもふつうである。米国でも,たとえばニューオーリンズ近辺では(エアコンを使用していない限り)湿度が高い。カナダなどでは,湿度がかなりに低くなる場合がある。相対湿度が30%以下になると,静電気問題が頻発する。TIA(米国通信工業会)は,通信機器を収容している建物などは相対湿度を(30~55%)に保つべきであるとしている。
衣面に水分が保持されるかどうかは,面の性質にも依存する。表面が親水性であれば水は保持されやすいので,リークは大きい。逆に,面が疎水性であればリークは小さい。疎水性の面では,水滴は(水銀のように)玉になりやすいが,親水性であると水が面に広がる。ガラスなどと比較してプラスチックは疎水性であり,この意味でもプラスチックは静電気問題を起こしやすい。界面活性剤を塗布して,面の疎水性を変える方法もある。
界面活性剤は,水と油の間を取り持つせっけんのようなもので,疎水性・撥水性の面を親水性にする作用がある。表面に界面活性剤があると,大気中の水分(湿度)を面にくっつけるので,電気がリークしやすくなる。
界面活性剤には,正イオン系,負イオン系などの種類がある。
静電気問題とは,端的に言えば湿度である。
静電気による力
帯電した物体には力がはたらく。
電界と電気力線,平等電界と不平等電界
帯電した物体があったり,電極に電圧を印加すると,まわりの空間に電界ができる。電界とは一種の緊張状態のようなものである。電界は,均一な平等電界と,小均一な不平等電界に大別される。
図1.2(a)に示した平行平板間の電界は平等であり,(b)に示した針一平板や球-平板間の電界は不平等である。図中の破線を電気力線という。電位(電圧)の高いところを山,低いところを海と考えて,山のてっぺんから水を流したとすると,電気力線は水が流れる道のようなものである。不平等電界では,山が尖っているようなものであるから,水の流れる道は山を下りるにつれてまばらになる。
電界の強い方へ向く力
平等電界であり,しかも電気力線で示した電界が完全に対称であると,その電界の中の物体に力ははたらかない。図1.3(a)の場合がこれである。不平等電界中の物体には,(d)のように力が働く。力の向きは,大気中の固体や液滴,油中の固体や水滴であると,電界の強い方へ向く。尖った形の電極へ向かって,電極の極性のいかんを問わず,動かされるのである。
(b)と(c)では,もとは電界が平等であっても,物体が入った(中央ではなくどちらかにずれたり,物体が対称形でなかったり)ので,対称であった電界が乱れて,少々不平等になる。この不平等性が力のもとになる。(a)の場合でも,左向きの力と右向きの力が平衡していて動かないのであるから,物体がゆれたりわずかな変化があると,バランスが破れて物体はどちらかの電極へ引き寄せられる。
帯電した物体にはたらく力
物体が帯電していると,電界の平等性のいかんや,電界の対称性や,物体の位置によらず力がはたらく。正に帯電した物体は負電極の方へ引き寄せられ,正電極からは反発される。同様に,負に帯電した物体は正電極の方へ引き寄せられ,負極からは反発される。この吸引力と反発力は,物体と電極間の距離(正確には,向かい合っている電荷の間の距離)の自乗に反比例するという クーロンの法則 に支配される。
それゆえこの力をクーロン力と呼ぶこともあり,また,エレクトロフォレティック・フォース(electrophoretic force)ともいう。
さきほどの図1.3(a)は不安定な平衡なので,実際には小球は左右のどちらかに動き,電極に衝突する。球は電極に接触して電極と同じ極性の電荷を電極から受け収って帯電するので,今度はこの電極から反発され,他の電極に吸引される。この過程がくりかえされて,球はピンポン運動をする。実際に図1.3(a)の配置で球を絶縁糸でつるしておくと,球は両電極間を振り子のように往復する。物体(小球)が絶縁物であると,電極から電荷を受け取る過程は時間がかかるが,導電性ならばすぐに進行する。
以上をまとめると,静電気によって電界中の物体にはたらく力には,①電界の強い方へ向く力(物体の比誘電率が媒体の比誘電率よりも大きい場合)と,②物体が帯電している場合にはたらく吸引・反発力とがある。実際の空間では,帯電電圧を印加した電極の表面は床,壁,天井,家具などの周囲物(ふつうは接地電位にあるとみなせる)の表面よりも電界が強いから,物体は帯電した物や電圧を印加した電極に向く力①を受ける。物体が電荷を得る(帯電している)と,吸引力だけでなく反発力②が現れる。
①と②の力は,物体が小さくて軽いと,実際に有効に作用する。この力は距離の自乗に反比例する。それゆえ,静電気力を利用しようとするとき,距離が遠い場合は空気流などを使って小さい物体を近くまで運んでやる必要があり,距離がごく近くなると,この力は非常に強く作用する。静電塗装の粒子などはその例である。
この力の結果として,次のようなことがある。電界中の小さい物体は,帯電していてもいなくても,だいたいのところ電気力線に沿って動く。電界の中に糸や紙片を入れると,電気力線に沿って伸びる。糸や細い紙片の端が,電気力線に沿って,長い糸や紙片を引っ張ると表現することもできる。
クーロン運動は全部これで説明できる。帯電した物体の直近の電界はこれより遠い場所の電界より強いから,ほこりを吸い寄せる。はがしたセロテープが巻いてあったもとの面に戻ろうとしたり,歩いたり服を脱ごうとするときに服がまつわりついたり,髪に櫛をあてると髪が櫛にくっついたりするのは,この力による。帯電した物体(たとえば,こすった下敷き)に頬や腕の毛が引きつけられて立つのは,毛の端が電界の強い方へ移動しようとして,毛全体を引っ張るからである。
写真1では,絶縁台の上に乗ってバン・デ・グラーフ発電機にさわり,高電圧電位になった2人の子どもの髪が立っている。手をつないだ2人の電位は同じで,2人の頭の間には電界がないので,ここの髪は立たない。髪の毛は接地電位にある壁や天井に向かって引っ張られるから,右側の子の外側の毛がいちばん立っている。立った髪の毛は,ちょうど図1.2(b)の電気力線のようなものである。
静電気による力を役に立てる場合もある。複写機の中では,この力を利用して,トナー(黒や赤の色粉)を感光ドラムにつけている。静電塗装では塗料の細かい粒を塗装される面につけ,電気集塵機では小さなごみを集め,静電気植毛では絨毯をつくるときに毛を立てる。
静電誘導
帯電物体A(あるいは電圧の印加された電極)のそばに帯電していない物体Bがあると,図1.4に示すように,物体B上で物体Aに向かい合う面に,物体Aとは逆極性の電荷が誘導される。この現象を静電誘導という。
物体B上で物体Aと反対の面には,物体Aと同極性の電荷が生じる。もともと帯電していなかった物体に,等量の正電荷と負電荷が反対の場所に現れるのである。この現象は,学校の理科での,箔検電器に帯電した棒を近づける実験で見られるのと同じである。
このとき,導体(金属など)では電子が導体内を移動するが,誘電体(プラスチックほか絶縁物)では“分極”という現象で静電荷と負電荷が分かれて現れる。
静電誘導の結果,物体Bは帯電物体Aと同じ極性の電位を持つ。その電位は,物体A・物体B間の静電容量C1と,物体Bの対地静電容量C2で,帯電物体Aの電位Vaを分圧した値である。すなわち,次の式で与えられる。
Vb=Va×C1/(C1+C2)
物体AとBは,極性が逆で向かい合っているから,引力が働く。同様に,物体Bと接地間にも引力が働く。これら2つの引力が“綱引き”した引き算の結果が物体Bを動かす。
帯電物体のそばに人がいてなにか作業をすると,人の腕や手指(物体B)から帯電物体Aと同極性の放電が第3の物体Cに向かって起きることがある。人の腕や手指は,物体Cに対しては物体Aと同じ極性に帯電しているのと同じ作用をする。
これらのさまは,磁石に鉄釘をつけると,図1.5のように釘がさらに別な釘を吸いつける磁気誘導に似ている。 (NSNS……と磁極が現れる現象。)
電極に高電圧を印加したり,物体の帯電電位が高くなると放電する。放電の知識は静電気問題を扱うときに必要である、図1.6に代表的な放電の例を示す。
電極間の空気ギャップをブリッジする放電を火花放電という。じゅうたんの上を歩いてドアのノブにさわったときに,指先とノブとの間に飛ぶ放電は火花放電である。部屋の照明を点けたり消したりするときに壁のスイッチの奥に光が見えるが,これも火花放電である。雷も火花放電である。
電極が尖っていたり,細い線であったりすると,尖端や線で放電が起きる。これをコロナ放電という。電極でなくても尖端であれば生じるので,雷雲が近づいたときなど,槍の先や船のマストに見られることが古くから観察されている。王冠やビールびんのふたのように,なにかのてっぺんにある小さなリングに見えるのでコロナという。
架空送電線には尖った場所がたくさんあるから,コロナ放電が起き,雨の口にはとくに生じやすい。暗ければその光が見えるし,電磁ノイズとしてラジオの邪魔になる。
絶縁物の上に電極があると,放電は面上を広がる。これを沿面放電という。
沿面放電は,帯電したプラスチックの表面にも起きる。ポリ袋や,ファックス,プリンタ,複写機の朧体や給紙トレーに見られる鳥の足跡のような模様は,洽面放電の跡である。
放電はある程度高い電圧でないと起きない。静電気が原因で生じる放電(静電気放電)ならば,帯電電位が高くないと生じない。どの程度の電圧で放電するかは,コロナ放電と沿面放電では,電極の大きさほか,条件によって変わる。火花放電では,大気圧空気中ではギャップ長で放電電圧が決まる。
大気中での火花放電の起きる電圧は,平等電界ではだいたいのところギャップ長に比例する(正確には,火花の電圧の上昇はギャップ長に比例するよりもややゆるやかである)。
火花放電
火花電圧は空気の密度(気圧)にも依存し,気圧が下がると火花電圧は減少す
る。おもしろいことに,気圧が大きく下がると火花電圧は再び高くなる。つまり,
この特性は下に凸な曲線である。空気中の火花電圧対ギャップ長・気圧特性はよ
く調べられていて,パッシェン電圧とかパッシェン曲線とか呼ばれている。
図1.7は空気のパッシェン曲線であり,火花電圧は[絶対気圧×ギャップ長]の関数であるので,横軸はこれである。大気圧空気ではパッシェン曲線の極小はおおよそ8μmで生じ,その電圧は約300Vである。すなわち,空気中では(特殊な例外を除いて),300V以下では火花放電は生じない。
火花電圧は,ガスの種類によっても異なる。アルゴンやネオンなどの希ガスは,空気よりも低い電圧で放電する。ネオンランプの橙色は,ネオン特有の色であり,ネオンランプではガス圧を低くして放電電圧をさらに下げている。ガス圧が低いと,ネオンに限らず空気でも放電チャンネルは広がってグロー状になる。ガス圧(や気圧)が高くなると放電チャンネルは細くなる。
常温の大気圧空気中(パッシェン曲線の極小よりも右側、すなわちギャップ長が数分の1mm以上の場合)では,火花放電の起きる電圧は1mmあたり約3kVである。
パッシェン電圧は平等電界を想定しているので,電圧の極性には関係しない。厳密には,パッシェンの法則は電極が平行平板の平等電界形電極の場合に成立するのであり,電極が尖ってい
る場合には適用できない。静電気を扱う場合には平行平板に近い電極ではない場合が多いが,極端に尖っていない限りはパッシェン電圧を火花電圧の基準として使うこともある。
なお,ギャップ間が空気でなく固体や液体の絶縁物であると,絶縁物の厚さ1mmあたり3kVよりもずっと高い電圧に耐える。平等電界であって,気泡や異物のない理想に近い場合は,10倍以上の耐電圧が期待できる。したがって,固体絶縁物や液体絶縁物を使うと高電圧絶縁を小型につくることができる。
不平等電界では,ギャップ長が同じである平等電界の場合の火花電圧と比較して,低い電圧で放電が起きる。針や細い線では,パッシェン電圧よりもずっと低い電圧で放電が始まり,しかも火花放電でなくコロナ放電が生じる。尖った物体(とくに金属の)からは放電が起きやすい。
コロナ放電であっても,電圧をずっと高くすると火花放電に転化する。コロナから火花に転化する電圧は,同じギャップ長で平等電界型電極のパッシェン電圧よりも高いことが多い。 したがってコロナ放電は,尖った電極から火花放電が起きないように弱い放電にとどめる作用をしていると考えることもできる。
ギャップ長が数十cm以上の場合,平等電界型電極であることは実際にはほとんどない。大気中では長ギャップ・不平等電界であっても,火花放電には1cmあたり約5kVが必要である。この値は,高電圧絶縁設計の目安になる。
さて,火花放電の結果,電極は短絡状態(ショート)になる。高電圧が存在したのが短絡されるのであるから,ここで大きなエネルギー消費があり,発熱したり,大きな音がしたり,ラジオノイズが放射されたりする。このエネルギーによって,可燃性雰囲気で着火・爆発が生じ得る。沿面放電でも着火・爆発につながる可能性がある。
コロナ放電
コロナ放電はエネルギーが小さい(流れる電流が小さい)ので,着火・爆発のもとにはならない。コロナ放電でも電圧を上げすぎると火花放電に転化するので,除電器に使うときなどは注意が必要である。電極尖端が尖つているほど(線が細いほど),そして相手の電極までの距離(ギャップ長)が大きいほど,コロナ放電は安定で火花放電になりにくい。
コロナ放電の安定性は極性にも関係し,負コロナ(尖った/細い電極に負の電圧を印加する場合をこのように表現する)の方が正コロナよりも火花放電に転化しにくい。 しかし,負コロナ放電にも難点があって負コロナよりも空気中の酸素からオゾンを生成しやすい。
沿面放電
上述のように常温の大気圧空気中平等電界ではギャップの火花電圧は1mmあたり約3kVであるが,図1.8のようギャップであると,この値はずっと小さくなる。どのぐらい小さくなるかは種々の条件に支配されるので一概に言えないが,1/10以下になることも珍しくない。
例を挙げると,ソケットのピン間に3kVがかかっているとして,ピン間隔5.1mm にすると,固体絶縁物自体は厚さ1mmで3kVに十分耐えても,固体表向のピン間で沿面火花放電や絶縁劣化が起きるおそれがある。
3kVに対して沿面ギャップ10mmにすれば,いつでも十分とは言えないにしても,目安となる値となる、静電気関連でコロナ放電を利用するときなど,6~8kVの電圧を印加することがあり,こういった場合は沿面絶縁距離が30mmは必要である。この距離が確保できない場合は,固体絶縁物表面にひだをつけて絶縁距離を稼ぐようにする。
図1.8のように,接地導体上の固体絶縁物の表面の電極に電圧がかかっている場合,沿面放電は容易に伸び,沿面火花へ転化しやすい。このような配置の接地導体を背後電極という。
沿面放電は,電圧が低い間はポールブッシェルと呼ばれる弱い放電であるが,電圧が高くなるとグライトブッシェルという長く仲びる放電になる。図1.9はポールブッシェルとグライトブッシェルの例で,接地金属板に写真フイルムを重ねて棒極を置き,棒電極に高電圧を印加したあと,フイルムを現像して得たものである。このような放電図形をリヒテンベルク写真図形という。
グライトブッシェルは放電エネルギーも大きく,着火・爆発のもとになりやすいなど,害が大きい。背後電極のある場合,グライトブッシェルはとくに長く伸けやすい。接地金属板にプラスチック塗装がしてあるとこの典型になり,数m以上伸びる沿面静電気放電が起き得るので,注意が必要である。
放電は,以上に見たように,光(紫外線も),音(超音波も),熱,電磁波(ノイズ),化学作用を伴う。これらが害になることもあれば,これらを利用することもできる。これら光,音,熱,電磁波,化学作用を検出して,有害な放電の存在を調べたり,その発生場所を特定することもできる。
絶縁体と導体の帯電
高分子材料は静電気を発生しやすい材料として知られていて,その面では代表選手のように思われている。しかしこれは,高分子が他の物質に比べて特に電荷を発生しやすいというよりも,ほとんど電気を流さない極めて良好な絶縁体であるため,発生した電荷を逃がさずため込んでしまうことによると考えられる。
静電気を帯びる物体は,このように一般に絶縁体であることが多いが,しかし金属や水などの導体も条件によっては帯電する。
導体は電気を流すため,これを地面に置いていたり,あるいは接地されている人間が持っていたりすると,その表面に電荷が発生してもたちどころに逃げてしまい,帯電状態になりにくい。
しかし,導体でも絶縁体の上に置いたり,あるいは霧や雲のように空間に浮遊している状態にしておくと,高分子と同等あるいはそれ以上に帯電する。したがって,静電気で帯電する対象としての物質は,世の中にある全ての物質ということになる。
例えば,高分子フィルムの表面を布で摩擦する場合,フィルム表面をどこでも同じように摩擦したつもりでも帯電状態は均一ではなく,場所によって強く帯電していたり反対に弱く帯電していたりする。
特殊な装置を使って摩擦が極めて均一に行われるようにしたとしても,電荷の分布はなかなか均一にならない。また,同じ材料を同じように繰り返し摩擦すると,発生する電荷の量はその都度変化し,時には電荷の極性まで変化してしまう場合もある。
強く繰り返し摩擦していると,摩擦中にもパチパチと静電気放電が起こることがある。特に摩擦を終わらせる時に,摩擦している物体がフィルム表面から離れる瞬間に静電気放電が起こりやすい。静電気放電が起こると,フィルム表面には正負の極性の電荷が入り交じった複雑な帯電分布を生じる。静電気放電が起こるときは,摩擦を真っ暗な所で行うと,パチパチと音がする度に青白い火花が発生しているのを見ることができる。
この現象は帯電体表面に新たな電荷の分布を作ってしまう。前述の静電気の発生状態が均一にならない主な理由は,物体表面のわずかな性質のばらつきとこの静電気放電であると考えられている。静電気現象は,このようにちょっとした例を見るだけでも複雑な現象であることを理解していただけよう。
静電気が発生する現象は物体間の接触・摩擦によるもの以外にも,物体の変形・破壊や荷電粒子が関係する現象など,さまざまな原因によるものが知られている。
また,静電気による帯電現象は,物体が正あるいは負の単一極性に帯電する状態(単極性帯電)を生じる現象と,物体のある部分は正極性に他の部分は負極性に帯電し,その物体の総帯電量を測定するとほとんど零であるような帯電状態(双極性帯電)を生じるものに分かれる(図1.1)。普通に起こる帯電現象は前者で,後者はエレクトレットあるいは永久分極という名前で呼ばれるやや特殊な帯電である。
表1.1 さまざまな帯電現象の例 | |||
帯電原因 | 名称・機構 | 物 体 | 条件・例 |
接 触 | 接触帯電・エネルギー準位の差に基づ く電子移動イオンの濃度差による移動 | 固体一固体 | 異種物質間の接触温度差のある物体間電界下での接触 |
はくり帯電・密接な接触帯電 | 固体(フィルムなど) | 粘着テープのはく離 | |
衝突帯電・短時間接触帯電 | 固体(粉体)一固体 | 粉体のパイプ内空気輸送(流送帯電) | |
流動帯電・固体壁へのイオン の選択吸着など沈降帯電・固液界面の電荷移動と粒子密度偏り | 固体一液体固体(粉体一液体) | 液体のパイプ内輸送液中分散粒子の重力沈降 | |
摩 擦 | 摩擦帯電・接触面積増加,荷電粒子放出温度差,ひずみなど | 固体一固体,粉体 | 異種物質の摩擦,混合(混合帯電) |
非対象摩擦帯電・温度差,ひずみの差など | 固体 | 同種物質間の摩擦(非対称摩擦) | |
破 壊 | 欠陥内の電荷による帯電 | 固体 | 粉砕 |
分 裂 | 表面・内部の電荷の分離 | 液体 | 液体の分裂(噴霧) |
電磁波照射 | 光電子放出など | 固体 | 紫外線・X線・カンマ線照射 |
コロナ放電 | コロナ帯電・イオン捕捉 | 固体,液体 | コロナ放電への暴露 |
プラズマ | イオン,電子の捕捉 | 固体 | プラズマ暴露 |
荷電粒子照射 | 電子,イオンの捕捉 | 固体,液体 | 電子ビーム,イオンビーム |
燃 焼 | 化学反応 | 固体,液体 | 化学反応 |
凍 結 | イオンの偏析 | 液体 | 不均一凍結 |
固体の帯電現象
接触帯電
二つの物体を接触させると,特に摩擦しなくとも帯電する。この現象を接触帯電と言う。接触帯電は摩擦帯電の最も基本的な要素であると考えられている。
多くの場合,接触だけの帯電では問題になるほどの電荷が発生せず,摩擦をすることによって多量の電荷が発生する。しかし,この接触だけによって発生する電荷が原因で現実に静電気障害が起こる場合がある。
例えば,射出成形でプラスチックを成形するとき,金型に密着した製品は極めて強く帯電し,金型から離れる時に静電気放電が起こる。これは,こうして成形されたプラスチック製品を注意深く見ればよくわかる現象である。すなわち,この種の製品の,普段手が触れない部分(内部や裏面など)に,必ずといって良いほど小さな雷の稲妻が走ったような跡が見られる。
これは静電気放電が起こった跡に電荷が残り,そこに空気中のほこりが付着した結果現れた模様で,ほこりの付着状態で電荷の分布状態を見ていることになる。
静電気放電によってできる電荷模様をスタチックマーク(Static Mark)又はスタテックマークともいう(図1.2)。清浄な状態の製品を製造する現場などでは,このように帯電した材料ができることは好ましくない。
この例でわかるように,二つの物体(高分子と金型)が特に良く密着した場合に,接触だけで多量の電荷が発生する現象が起こる。密着度が悪いとこの接触帯電はほとんど問題にならない。
接触帯電は,二つの物体が接近し,接触することによって起こる。2物体が接近し,接触すると,一方の物体の表面からもう一方の物体の表面へ電荷担体(電子あるいはイオン)が移動し,その結果として図1.3に示すように接触界面で電荷の分離が起こる。
電荷の移動は必ずしも一方から他方へと決まったものではなく,両方から異なった電荷担体が移動する場合もあると考えられるがともかく接触するとほとんど瞬間的にこの電荷移動が起こって帯電する。
なぜ接触した時に電荷担体が移動するかという問題はなかなか複雑で,現時点でもなおはっきりしていない要素が多いが,電荷担体が電子の場合は接触する。表面の電子のエネルギー的な優位性による。
イオンの場合にはほとんどメカニズムがわかっていないが,イオンの移動の証拠を実際に捕らえた実験結果もある。
接触した2物体が離れる時,接触界面では一度移動した電荷担体の一部は元にもどり,表面に残留した部分が静電気となる。接触時の電荷移動は絶縁体だけでなく導体である金属どうしでも起こる普遍的現象で,このため金属でも絶縁体で保持して接触・分離させれば帯電する。
物体の表面は一般にこまかい凹凸があり,そのため接触面で電荷が移動できるほど密接に接触できる部分の面積は,見かけの接触面積に比べてはるかに少ない(図1.4)。磨いた金属面どうしの接触でも,このような密接な接触部分の面積(接触論では真実接触面積という言葉があるが,ここでは電荷発生の有効接触面積という言葉を使うことにする)は見かけのそれの数千分の1程度であるという測定例もある。
このように実際に帯電に関与できる有効接触面積が小さいため,接触帯電で発生する電荷を見かけの接触面積で割った電荷密度として表すと,後述する摩擦帯電と比べてかなり小さいのが普通である。
しかし,表面間で緊密な接触が起こる場合には電荷密度は高くなり,静電気障害を起こす原因になる。前述の射出成形の例では,高分子材料が溶融状態にある間に金型に接触するため,密接な接触が起こる。これとは反対の関係で,液体金属である水銀と高分子フィルムが接触する場合や,軟らかいゴム質の物体が固体表面に強く押しつけられた場合などで極めて強く帯電することが知られている。
接触帯電と後述する摩擦帯電では,接触する物質の組み合わせによって帯電電荷の極性と量が異なる。いろいろな物体をそれぞれお互いに接触あるいは摩擦して帯電させ,その帯電極性によってそれぞれの物質を並べたものを帯電列という(図1.5)。
帯電列では正極性側に位置する物質と負極性側に位置する物質が接触するとそれぞれの側の極性に帯電する。列上で近い位置にある物質の組み合わせでは何度も実験すると帯電極性が変化してしまったりするように帯電極性がはっきりしない場合もあるが離れた位置にある物質同士では極めて明瞭に正負に分かれて帯電する。
接触帯電の例としては最初に述べたもの以外に,高分子フィルムと搬送口ーラとの接触・分離による帯電,椅子に座っている人が立ち上がる時の帯電などがある(図1.6)
剥離帯電
何かの表面に張り付けた粘着テープをはがすとき,あるいは溶融した高分子材料を固体の表面に流し,固化して膜になった後ではがすときなどに,特に強い帯電現象が観測される(図1.7)。
この現象は前項で述べた接触帯電そのものであるが,特に[はがす]という動作を伴う際に帯電するように見えるためはく離帯電と呼ばれる場合がある。はく離帯電では一般に密着度が良いため電荷密度が高く,はく離時にほぼ必ず静電気放電を伴う。はく離した表面に粉を散布すると放電の結果発生した複雑な模様のスタチックマークが見られる。
はく離をゆっくりと行うと,はく離に従って小さい静電気放電が継続して起こることによって帯電量が少なくなり,早くはく離すると静電気放電がやや押さえられ,帯電量が多くなる傾向があるる(図1.8)。
摩擦帯電
二つの物体が接触している時に接触面が擦り合わされると,接触面での電荷発生に有効な接触面積が大きくなるため一般に帯電量は多くなる。摩擦はこのように有効接触面積を増大させる効果の他に,表面物質を破壊したり,温度上昇を招いたりする効果がある。これらの効果は当然,帯電現象に何らかの影響を与えているはずであるが,どの効果がどの程度影響を与えるかはケースバイケースであるとともに,その詳細はわかっていない。
最近の研究では,物体どうしが摩擦し合うとき,摩擦面から電子やイオンが放出されることがわかった。この現象はトライボエミッションと呼ばれ,摩擦帯電の機構に大いに関係かあるるものと思われる。
物体どうしが触れ合ったり離れたりする状況では,摩擦を全く伴うわない接触だけの帯電は考えにくく,摩擦帯電の効果が大なり小なり入っている。摩擦の程度が多いか接触の程度が多いかによって,物質の帯電傾向が異なる例も見られる。
摩擦といえば摩擦係数という物性定数を思い浮かべるが,摩擦帯電の特性と摩擦係数の間には、ほとんど相関が無い。
摩擦帯電特有の現象として,非対称摩擦による帯電がある。図1.9はこの状況を示すものである。(a)のように2枚の板が摩擦されているときは,お互いの等しい面積が摩擦されている。しかし, (b)のように,先端が曲率半径の小さい丸みを帯びた物体が平面に接触して摩擦しあう場合には,平面の方は細長い摩擦面になるが,これに接触する物体では摩擦は先端の微小な面積に限られる。
このようにお互いの被摩擦面積が異なる摩擦を非対称摩擦と言っている。
非対称摩擦では,摩擦による温度上昇は摩擦面積が小さい方が顕著で,また摩擦によって受ける力学的ストレスや破壊の程度もこの部分の方が大きくなり,これらの影響によって帯電すると考えられる。
接触帯電は異なった物質どうしの接触で起こる現象であって,全く同じ物質どうしでは電荷は発生しない。非対称摩擦の場合は同じ物質どうしの摩擦でも帯電することが知られている。そこで非対称摩擦による帯電現象は,摩擦帯電独特な現象と言うことになる。
非対称摩擦は,このように摩擦される両方の面が異なった条件で摩擦される場合の帯電現象で,図1.9の例以外に粗面と平滑面,大きな粒子と小さな粒子の間の摩擦などで起こり,同じ物質同士であってもそれぞれの物体が帯電する。
誘導帯電
この帯電現象は導体にのみ起こる現象である。例えば正極性に帯電した帯電体に導体が接近すると,導体の帯電体に近い面には負極性の電荷が,反対側には正極性電荷が表れる。この現象を静電誘導という。
導体の一部をアース(接地)すると,帯電体の電荷の極性と同じ正極性の電荷は,帯電体からできるだけ離れようとして接地線を伝わって大地に逃げてしまい導体には帯電体と逆極性の負極性電荷だけが残る。そこで導体を絶縁体で保持しながら接地線を外すと,図1.10に示すように導体は負極性に帯電した状態になる。この帯電現象を誘導帯電と称する。
電磁気学の教科書には,電気盆の説明をしているものがある(図1.11)。金属の円盤に絶縁体の柄を付けたものを電気盆と称する。摩擦帯電させた絶縁板の上に電気盆を接触させる。次に金属の盆の部分に指を触れると,絶縁板表面の電荷と同じ極性の電荷は指から人体を伝わって大地に逃げてしまう。
指の代わりに接地線を触れる方が完全である。次にこの状態で盆の柄を持って盆を絶縁板から離すと,いったん接地したはずなのに盆は強く帯電し,これに指でもふれようものなら強い電撃を感じるようになる。
なぜ接地した盆がまた帯電したのだろうか。これは誘導帯電の典型的な状況で,接地した盆の絶縁体に接触している面には誘導された電荷があるがそれは絶縁体表面の電荷と結びついていて,全く外部に影響を持たない。だから,盆が帯電していないのと同じ状態になっていると考えてよい。ところが盆を絶縁体から離すと,盆の誘導電荷は結びつく相手から離れてしまうため自由になり,盆の表面全体に分散して分布するようになる。その結果,触れれば電荷が流れ,感電するようになるのである。
電気盆に絶縁体から離した状態で接地線を触れれば,その電荷は大地に流れて行き帯電していない状態になる。しかしこれを最初のように帯電した絶縁体に再度触れると静電誘導が起こるから,何度でも接地して離すと帯電するようにできる。電気盆を帯電した絶縁体から離す力学的な仕事が帯電状態を生んでいると解釈できる。