除電 static charge elimination 【図解】
英語:static charge elimination 中国語:除电
静電気は日常生活ではホコリの付着、車のドアノブに接触した場合の電撃、工場などの製造現場では爆発・火災などの安全面や製品の品質に悪影響を与えるなど、種々のトラブルの原因となっています。
この静電気を取り除くことを除電と言います。
除電の方法はアースの設置、イオナイザー、加湿、除電ブラシ、除電ひもなどが代表的方法です。
静電気除電とは
静電気による障害や事故は静電気の発生を抑えれば避けられるが,これは実際には困難であるため,発生した電荷を除去する“除電”が行われる。固体の内部や,液体,堆積した粉体などを除電するのは困難であるけれども,固体表面のような面を除電することはできる。
除電は,帯電電荷と逆極性の電荷を帯電部分に運び,電荷を中和して行う。逆極性の電荷を発生させるのに放射性同位元素を用いる方法、コロナ放電による方法がある。
除電器や除電バーは広く使われており,とくにプラスチック・シートなどを扱っている工場では,非常に多数の除電器が設置されている。ユーザーにとっても,除電器や除電バーを有効に投資効率よく使用するために,除電の基礎知識は有用である。
コロナ放電による除電方法
まず尖った針や細い線で生じるコロナ放電について述べる。コロナ放電は,イオン発生器として除電用だけでなくさまざまな静電気応用に使われているのでややくわしく説明しておこう。
図3.1は,直流電圧を印加した場合のコロナ放電の電流一電圧特性の例である。
電極はコロトロンで,直径60μmのタングステン線が張ってある。外側の接地缶電極の断面はコの字形で,その内寸の長辺は22mm,短辺は15mmで,長辺の1つが開口部であり,線は開口から5mm奥にある。本書で測定結果を示すコロトロンの缶の形状は,すべてこれと同じである。
電圧Fをゼロから上げていきある電圧になると尖った針や細い線から設置電極へと電流Iが流れ始める。この電圧をコロナ開始電圧Viと名づける。さらに電圧を上げると電流は増大する。電流Iと電圧Vとの関係は,ほぼ次式で表される。
Aは電極の大きさ(針先端の曲率,線の径)や対向電極への距離などで決まる係数である。
I=A×(V-Vi)×V
要するに,コロナ電流Iは電圧Vの二次関数であり,ある電圧Viまではゼロでは立ち上がらないということである。図3.1は,有効長さが200mmの線の場合であり,電流は1mA以下である。線でなく針であれば,電流はずっと小さい。
ここで,尖った針や細い線に負の電圧をかける場合(負コロナ)と正の電圧をかける場合(正コロナ)との極性による違いに注目してほしい。コロナ開始電圧柘は負コロナの方が小さい。同じ電圧で比較すると,電流Iは負コロナの方が大きい。つまり,電荷供給能力は負コロナの方が優れている。コロナ放電を利用するのには高電圧電源が必要で,これは,大きさ,重量があり,高価であって,しかも安全に注意する必要がある。
高電圧電源を切り詰められるという意味では,負コロナの方が好ましい。正と負のどちらのコロナを使うにしても,大気中である限り(減圧するとRは低下する)数kVの高電圧電源が必要である。正コロナは電圧を上げると火花放電になりやすいのに対して負コロナは電圧の広い範囲で安定である。ふつうは,コロトロンにVの2倍程度の電圧を印加して使う。
しかし,負コロナには難点もある。そのひとつは,線電極上のコロナは均一でなく,局所的であることである。正コロナは,均一性が優れている。図3.2のコロナ放電光の写真から,これが明らかである。
コロナ放電はオソン発生を伴う。負コロナは正コロナよりもオゾン発生が多いので,これも難点である。
能動除電
コロナ放電電極に高電圧電源を接続し,発生する電荷で除電することを能動除電という。後述のように,高電圧電源を使わない場合を受動除電と呼ぶ。
電荷発生用につくったコロナ放電電極をコロトロン(corotron)と呼ぶ。図3.5は複写機用のコロトロンで断面がコの字形の金属缶の中に細いタングステン線を張ってある。線でコロナ放電が起きて電荷が生じ,この電荷は接地した金属缶へ流れるだけでなく,コの字の開口から流出するので,開口部の外側近くに物体を置くと,これに電荷が到達する。図のコロトロンのコロナ電流一電圧特性は,図3.1に示してある。コロナ開始電圧Kは3~4kVであり,6kV程度の直流電源と組み合わせて使う。
能動除電では,図3.1のような電流一電圧曲線上の任意の電圧を選ぶことができるから,供給する電荷の極性も量も自由に設定できる。除電対象物体が移動するような場合(プラスチック・シートをローラーで搬送するなど)でも,電荷供給量を多くして対応できる。
極性に関しては,除電対象物の帯電とは反対の極性の直流電圧をコロナ電極に印加する。正電荷と負電荷の両方を供給し,しかもその比(イオンバランス)を変えられる機種もある。帯電の状態に応じて電荷供給を自動制御することもでき,そのようなシステムも商品化されている。
コロナ電極に交流を印加することもある。商用交流(50HZか60HZ)では,前項で述べたような正コロナと負コロナが半サイクルごとにくりかえされる。このような交流除電器では,正電荷と負電荷の両方を供給できる。コロナ放電で生じた正電荷は対象物の負帯電部分に,負電荷は正帯電部分に引き寄せられて,それぞれ帯電を中和する。
能動除電では高電圧電源を使うので,もしコロナ放電でなく火花放電が起きると,電源から相当のエネルギーが注入され,場合によっては着火・爆発のもととなる。交流高電圧を印加する除電器であれば,漏洩変圧器を使うとか,変圧器と除電電極との間にコンデンサを入れるとかの方法により,注入エネルギーを制限できる。交流除電器でも,イオンバランスを考慮した製品もある。
除電すべき物体の面には,実際には電荷が均一に分布しているのではなく,いわば濃淡があり,正帯電と負帯電の箇所が両方ある場合が多い。正帯電部分と負帯電部分がある場合は,交流除電器が有効であると考えられる。
能動除電では,帯電電荷と逆極性の電荷を供給して中和するにとどまらず,逆極性に帯電させてしまうことがある。プラスチック・シートを除電するとき,シートの裏側に接地金属板などがあるとこれが起きやすく,注意が必要である。接地導体を覆っているプラスチック・シートに対して直流除電器を使うと除電というよりも除電器の極性の電荷をシートに与える帯電装置となる。
除電効果からすれば除電対象物のなるべく近くにするのが望ましい。しかし,10mm程度まで近づけるのは実際には困難な場合がある。
そこで,空気流で電荷を送る送風式除電器がある。
コロナ放電ではイオンが移動するので,イオンが空気にぶつかり空気流を生じる。これをコロナ風と呼ぶ、コロナ風の流速は,数m/s程度である。
送風式除電器では,コロナ風よりも強い風でイオンを送る。例を図3.6と図3.7に示しておく。
図3.6は,フアンの風にのって電荷が飛んでくる(イオン風が飛んでくる)ようになっていて,この風を除電対象物にあてる。図3.7では,チューブでイオンの風を除電対象物近くまで送る。この例では,幅の広いシート状の対象物をローラで搬送しながら除電するために,イオンの風の吹き出しを対象物の幅と同じ長さの棒に分布させている。除電器にはこのほかいろいろな種類や形状のものがあり,対象物などによって選んで使う。
*除電についての更なる詳細は下記の記事を参照してください。
関連記事:静電気防止、静電気除電対策【図解】