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静電気障害の概要【図解】

静電気障害の概要【図解】 静電気トラブル

静電気障害の概況

静電気が発生するために起こる障害は,ほとんどあらゆる業種に及ぶと考えてよい。静電気障害の内容としては,生産工程で生産能率を低下させ,あるいは製品の歩留まりを悪くするような障害,出荷後の製品の取り扱い上の制約を厳しくするような障害,またオフィスや作業現場で機器の誤動作や規模の大きい危険性を生む障害などがあげられる。

これらの障害を生じている現場あるいは事業所では,その内容だけでなく,発生そのものを公表しない傾向があり,そのため一般には知られにくい。産業の内容別に静電気障害の例を表4.1に示し,以下にその概要を説明する。

表4.1 産業別静電気障害の例
産業分野 帯電体 障害の例
高分子 繊維 原糸のより合わせ不良,糸のからみ糸の切断
フィルム ほこりの付着,ローラヘの巻き付き静電気放電(着火源,感電,ピンホール形成)
その他 ほこりの付着,製品どうしの付着・反発装置への付着
粉 体 粉体 凝集,飛び散り,ふるい分け不良静電気放電(粉塵爆発,感電)
流送パイプ ほこりの付着,静電気放電(着火源,感電)
紙・印刷 インクの飛び散りなどの印刷不良紙の密着,裏写り
石 油 石油 タンク充填中の爆発,タンク油量測定中の爆発
輸送パイプ パイプ外面の静電気放電
その他 タンク洗浄中の爆発(水の帯電)
半導体 パッケージ,内部回路 回路の破壊,特性劣化,歩留まり低下
装置類,梱包材,作業者 出荷後の不良
液 晶 ガラスパネル,作業者装置類 トランジスタの破壊,製造中のガラスの破壊
電子機器 絶縁材料,作業者,その他 回路・デバイスの破壊,回路の誤動作コンピュータの動作停止,ロボットの誤動作
医 療 着衣,その他 酸素タンク内の着火・爆発,麻酔ガスの着火
オフィス 着衣,人体,その他 コンピュータ誤動作,コピー用紙のブロッキング感電,ほこりの付着
その他 絶縁体,導体,人体 静電気放電による通信障害,ヘリコプター接触時の感電,原子炉の窓の破壊変圧器の油の帯電による絶縁破壊、自動車乗降時の感電

 

 人体による静電気障害

人体は静電気的には導体であると考えてよい。もちろん人体は完全な導体ではないので,人体が介在する静電気放電ではこのことが現れて来ることがあるが,人体は絶縁性の良い靴を履いたり,あるいは絶縁比の良い床の上にいるときは,導体として静電気をためるコンデンサの役割をする。人体は100~300 [pF]程度の静電容量としての機能を持っており,大地から絶縁されていれば帯電し得る。特に動き回ったりいろいろな動作をするため帯電しやすく,帯電した人体が原因で起こる静電気障害は意外に多い。

 

人体の帯電

人体がどのようなときに帯電するか,以下に分類して説明する(図4.25)

人体の帯電

人体の帯電

人体の直接接触・摩擦

他の物体と人体の露出部分が接触すれば帯電する。しかし,指や手が他の物体と触れて,どの程度帯電するかはほとんど実験されていない。実際には,指や手が触れる程度では多量の電荷が発生するごとにはならないであろう。

帯電体への接触

人体と他の帯電体との接触による帯電は,帯電体が絶縁体である場合と導体である場合に分けられる。特に帯電している導体に触れてその電荷をもらう場合が重要であろう。
帯電体が絶縁体である場合は,その表面に手を触れても電荷は移動しない。しかし,手を触れる寸前に静電気放電が起こると,帯電体から人体に電流が流れ人体は帯電することになる。

帯電体が導体である場合,すなわち導体が絶縁されて帯電している場合には,その帯電量はかなり多くなっている時があり,これに触れると人体も強く帯電する。静電容量Cの導体が電位に帯電しているとき,静電容量Cの人体がこれに触れて離れると,この系のトータルの電荷量は変わらないから,

V=(C十C)V
=C/C1+C2 (V)
すなわち人体はV2[V]になり,そのときの帯電量はQ2=C2V2[C]である。

着衣の摩擦による帯電(図4.25 (c))

着衣が他の物体と接触し,または摩擦するときの帯電で,種々の作業を行っているときこの機会は多い。特に椅子に座って立ち上がる際の帯電は,接触面積が大きいこともあって強烈である。椅子に座っているときは,椅子の表面とズボンやスカートの尻の部分との間で静電気が発生しているが,この部分で正負の電荷が結びついているため,人体の電位は上昇しない。椅子から尻を持ち上げてはじめて人体の電位が上昇し静電気障害を起こす。

しかし,この場合でも着衣の帯電電荷が人体に移動することは少なく,多くの場合,静電誘導によって帯電していると見なすべきである。しかし,この状態で静電気放電が起これば,人体も正味の電荷を持つようになることがある。

衣服の着脱

衣服を着ている場合,人体と衣服,あるいは衣服と衣服の間で接触・摩擦帯電が起こっていても,これを着た状態では人体は帯電状態にはならない。お互いの接触・摩擦で帯電した表面どうしが接触した状態では正負の電荷が一緒になって,総量としてはゼロであり,外部に影響を及ぼさない点は前項で説明した椅子に座っている場合と同じである。正負の電荷が一緒にあれば総量としてゼロであり,人体の電位も変化しない。

しかし,衣服を脱ぎすてると,正負の一方が人体から離れるため,人体の持つ逆極性の電荷によって帯電している状態になる。 衣服が人体から部分的に離れる場合も人体の電位は変化する。この場合は,完全に脱ぎ捨てる場合よりも電位の変化は少ないが,それでも静電気障害の原因になることがある。

歩行による帯電

床と靴の間の摩擦で,例えば床が負極性,靴底が正極性に帯電したとすると,誘導帯電で足の靴に面した部分は負極性に,頭や指先は反対極性の正極性に帯電する。

 

 人体帯電による障害

人体が導体として機能するため,人体に帯電した電荷は体内を自由に動き,極めて危険な状態を作り出す。帯電した作業者が静電気に敏感な半導体ICなどを操作すれば,これを破壊させることは極めて現実的なことである。

また可燃性ガスの爆発事故も人体の帯電が原因で起こることがかなりある。帯電した人が他人に触れれば,お互いに感電する。静電気放電による電磁障害も人体からの放電がその原因になりうる。
ともかく人間は動き回り,種々の作業をする関係で極めて帯電しやすいから,人体の帯電を認識し,適当な対策を考える必要がある。

 

 

高分子関係の静電気障害

絶縁抵抗の高い高分子材料を取り扱う産業では,板材,フィルム,繊維,粉体などあらゆる形態の材料で帯電に悩まされている。わが国で静電気障害が一般に知られるようになったのはナイロンの生産開始からと言われており,帯電した原糸が相互に反発するためより合わせて糸にすることが困難になったり,糸のからみによる切断など,種々の生産障害が起こった。

高分子フィルムの生産や,塗布や蒸着などの再加工の工程では,フィルムが多数のローラと接触するためその電荷密度が高くなり,フィルムのローラヘの巻き付きやほこりの付着などの障害が多発する。このような工程中ではフイルムは極めて高い帯電状態になっており,特にフイルムが金属ローラから離れた位置にある部分では,フィルムの電位は数千[V]から1万[V]以上になっていることが多い。そのため,フィルムが走行している間に静電気放電が頻繁に
発生する。

フィルムの帯電による静電気放電は,フィルムが金属ローラから離れる瞬間に発生するものが一番多い(図4.1)。また,走行するフィルムに近接した金属体があると,静電気放電の発生源になりやすい。面積の大きい帯電フィルムでは,近接導体近傍の電界も強くなるため,放電が起こる際にはその規模も大きくなる。可燃性雰囲気のある所では着火の危険性が問題になるが,着火は規模の小さい静電気放電でも起こり得る。

ローラによる静電気放電

ローラによる静電気放電   画像出典先:静電気の基礎と帯電防止技術 村田雄司 (著)

さらに静電気放電が起こると,放電によって帯電体表面に再分布した電荷にほこりなどが付着し放電模様が発生したり,時には放電により微細な穴が空いたと言う報告もある。放電による電荷模様の発生は,上記のようにほこりなどが付着しなければ目に見えないが,あとで磁性体などを塗布したり,真空蒸着をしたりする際に,淡い模様となって表れる場合がある。

高分子材料を射出成形する工程では,製品の帯電は特にハイレペルで,金型から分離するときにほとんど必ず静電気放電が発生する。静電気放電の跡には強固にほこりが付着している。

片面に真空蒸着などで金属層を形成した高分子フィルムでは,表面電位が低いため,表面の電荷の除去が極めて難しい(図4.2)。そのため,フィルムが口-ラなどに付着して切断するなどの障害が発生しやすい。

面メタライズフィルムの静電気障害

片面メタライズフィルムの静電気障害   画像出典先:静電気の基礎と帯電防止技術 村田雄司 (著)

 

粉体関係の静電気障害

粉体は単位質量当たりの帯電量が極めて多くなる傾向があるため障害を起こしやすい。以下に述べるような粉体を扱うさまざまな工程で静電気障害が経験されている([図4.3参照]。

粉体が関係する静電気障害

粉体が関係する静電気障害

篩分け時の帯電障害

粉体を生産する工程では,篩(フルイ)を使用して分級する場合があるが,粉体が篩の網目との摩擦で帯電し,篩を出たあと個々の粒子が反発し合い,篩の下に置いた容器に入りにくくなる。また,篩の網目に粉体が付着して見かけ上網の目の大きさが小さくなり,篩分けられる粉体のサイズが変化したり,囗が全く詰まってしまうことがある。

空気流送時の帯電障害

粉体の製造工場などで使われるパイプを用いた空気輸送では,パイプ内壁への衝突および摩擦によって粉体粒子は強く帯電する。送られる粉体は,輸送路が長いほど,またパイプの曲がり部の数が多いほど帯電量が多くなる。また,流送速度が増すと衝突時の接触面積が増え,帯電量が増加する。

パイプ経が小さい場合はパイプ内部での粉塵爆発は起こりにくいが,パイプの出口で粉体を袋詰めするような場合,粉体の帯電量が多いとお互いの帯電電荷による反発力で粉体が飛び散ってしまって袋に入りにくくなるとともに,近くに何か物体があると帯電粉体がこれに付着してしまう。また,作業者が強烈に感電する事故も多い。出口から排出される粉体の量と帯電量が多い場合は,粉塵爆発の危険もある。

 

帯電した粉体は,空気流が遅くなる部分で管壁に付着しやすい。付着量を減らすには流送系で断面積が大きくなっている部分など,空気流のよどみ部分を極力減らすことが必要である。

パイプが金属の場合は,これを接地していないとパイプが高電位になり,感電や静電気放電の危険を生じる。絶縁性パイプの場合には,パイプ内面が帯電し,外壁で放電が起こることがある。外壁が直接帯電していなくても内壁の電荷によってパイプ外部の電界が強くなり,静電気放電が起こるのである。

医薬品の静電気障害

医薬品工業では,粉末薬品を扱うため静電気障害を経験している。粉末製剤を包装する分包工程では,包材に粉末製剤が付着する現象が起こる。包材に付着する粉末製剤が多くなると見かけが悪いだけでなく,包材から製剤の排出される量が減少し,薬効が不十分になることが考えられる。

図4.4は広く使われているポリエチレンラミネートグラシン紙の包材に試料粉体(乳糖とポテトスターチの混合粉体)を入れて振動させ,試料粉体の帯電量と包材への付着量を調べた結果である。粉体の帯電量が増加するに従って直線的に包材への付着量が増加している。

粉体の包材への付着

粉体の包材への付着

 

静電気 可燃性溶剤への引火

粉体を溶剤に投入して攪拌・溶解させる工程で,発火事故が報告されている。
大きな金属製タンクに入っている溶剤(キシレン)に金属容器内に入れてある粉体を金属容器を傾けて仕込む際に,キシレンに引火して爆発する事故があった(図4.5)。これは粉体が金属容器から滑り落ちる際に帯電し,金属容器の電位が高くなり,金属容器と金属タンクの間に静電気放電が起こった結果であると判断できる。

粉体移動時の静電気障害

粉体移動時の静電気障害

 

この事故を分析すると静電気による危険性の問題点は次のようになる。

① タンク内はキシレンのガスと空気とが適当に混合された状態になっていたと思われる。

② 粉体を入れた容器は金属製で,しかも電気的に絶縁されていた。

③ タンクは金属であった。

④ 粉体と固体壁との摩擦では多量の電荷が発生する。

可燃性のガスは酸素が混合されていないと爆発しない。タンクの蓋が開いていて,タンク内に空気が入っていると危険な状態になる。このような状態の中で,粉体容器である金属体が帯電する。粉体ももちろん総量としては容器と絶対値で同じ量に帯電するが,粉体は徐々に容器から離れて落下して行くので,大きな放電が起こりにくい。しかし,粉体容器は粉体が全て落下してしまったあとは粉体との間で発生した全電荷量を持っているわけで,その結果電位も高くなり放電し易い状態になっている。粉体容器の電位は1.2~1.8[kV]で,その静電容量から計算した静電エネルギーは0.07~0.16[mJ]の範囲であった。

 

この電位は静電気で帯電した物体の電位としては決して高い方ではない。しかし,帯電導体による放電は帯電絶縁体による放電より放電エネルギーが大きくなるから,特に危険性が高い。
この場合は,金属容器を接地しておけば,爆発には至らなかったと思われる。
導体は接地するということが鉄則である。

 

関連記事:静電気による爆発、引火事故

 

静電気 粉塵爆発

粉体の静電気障害として最も恐いのは,静電気放電による粉塵爆発である。粉塵の最小着火エネルギーはガスの場合より大きな値であるが,導体が帯電している場合や,帯電粉塵が密度の高い電荷雲を形成している場合など,さまざまな危険な状態が起こりうる。

帯電粉体が大きな容器に流入する場合には危険性が高い。 20[μm]程度のサイズのプラスチック粉体を空気流送し,直径3.5[m],高さ10[m],容量100[m3]の金属製サイロに貯める過程で,サイロ内で爆発事故が発生している。
粉体の流送は,直径6[inch]のパイプで約24[m3/min]の空気流量で行われた。サイロに約12[トン]の粉体が入っている状態で流送を始め,14[分]経過したとき,サイロ内で粉塵爆発が起こった。この事故は静電気放電による粉塵爆発と考えられる((図4.6)

サイロ内での粉体爆発

サイロ内での粉体爆発

サイロ内の粉塵濃度は,サイロ内壁に付着している粉体がはがれ落ちるときの一時的な濃度上昇を考慮して,大体420[kg/m3]程度と見積もられ,着火しやすい粉塵雲ができていたと考えられる。

この事故に関して興味深いのは,事故の再現実験の結果である。粉体の帯電状態を調べるため,長さ2[m],幅100[mm],深さ50[mm]のステンレス製スパウトを傾け,一端から粉体を投入して滑落させ,他端にはファラデーゲージを置く。こうして滑落により粉体がどの程度帯電するかを調べるわけであるが,粉体は粉体容器およびスパウトに逆極性の電荷を残しているので,それらの電荷量の絶対値は粉体の帯電量の絶対値と等しいはずである。ところがこの実験では両者の間に大きな違いが出ることがわかった。それは,滑落する粉体粒子よりさらに微細な粉塵の帯電が原因である。

 

表4.2に測定結果を示す。発生する粉塵は粉体の量よりはるかに少なく,粉体の質量のわずか3.44%にしかならないが,その比帯電は粉体の18.1倍である。ここでさらに興味深いのは粉体の帯電極性は負であるのに,粉塵のそれは正であることである。これは帯電原因が異なることを示すものかも知れない。

微細な粉塵の帯電

微細な粉塵の帯電

以上の結果からの見積では,サイロの内壁に付着した微細な粉体が崩落する時にはサイロ内の電界強度が8.3×100[kV/m]にもなり,サイロ内の金属突起物から静電気放電が起こり,これが原因で粉塵爆発に進展したと考えられた。

粉体が空気輸送される場合は,輸送パイプの曲折の度合いによって異なるが,スパウトを滑落させる場合よりも帯電量は多くなるものと思われる。しかし,この再現実験の例のように,粉体粒子よりさらに細かい粉塵が発生するときは,電荷雲の電荷密度の点でも,また着火のしやすさの点でも,危険性が高まる。

 

 紙,印刷関係の静電気障害

紙の電気抵抗は湿度に強く依存する。これは紙の吸湿性によるものであるがそのため紙は湿度が高いときは帯電しないが低湿度になると静電気を保ち,状況によっては強く帯電する。こうして空気が乾燥しているときは,印刷など紙を扱う工程で静電気障害が発生する。印刷した紙どうしが静電気によって密着するためにインクが裏写りしたり,印字部でインクが飛び散り,字が化けるような障害が発生する。紙の帯電は紙づまりの原因にもなる。これらの障害は,除電装置の普及によって軽減されているが,印刷装置内部での紙粉の付着など,紙の帯電による隠れた障害があるものと思われる。

関連記事:工場での静電気障害

 

石油関係の静電気障害

絶縁性でかつ可燃性である石油を扱う際の静電気障害は最も恐れられているものである。このような液体がパイプ内を流動するときには,その帯電の危険性を考慮しなくてはならない。

原油タンカーのタンク内洗浄中の爆発事故,夕ンクローリーの充填中の事故,タンク内油面を調べるために検尺棒を入れたときの爆発事故など,多くの規模の大きい事故例がある。

 

しかし,石油関係は一度起これば大事故になるため,作業基準がきちんと決められており,これが守られていればほとんど事故は生じない。うっかりミスで接地を忘れたというようなときに大きな事故が発生している例が多い。

関連記事:静電気による爆発、引火事故

 

半導体関係の静電気障害

電子回路に使われていた真空管の代わりとしてトランジスタが開発され,次にFET(電界効果トランジスタ)という素子が作り出されてから,電子素子と静電気が深い関係を持つようになった。 FET (MOS型FET)は入力端子と他の端子の間の抵抗値が極めて高く,帯電しが人間が指で素子の端子に触れるとたちどころに壊れてしまった。その後,微細で複雑な回路を小さなシリコン基板上に形成したIC(集積回路)が開発され,静電気障害の対象になった。 ICは絶縁性の高い酸化シリコンの薄い膜を持ち,これが静電気特有な高電圧によって破壊される。

図4.7は半導体デバイスの障害が目立ちはじめだ初期の頃のデータで,素子の不良発生率の季節要因を調べたものである。不良率が季節によって異なり,冬の前後で多くなっている。湿度を横軸に取って整理したデータでは,湿度の低下が不良の増大と相関を持つことがわかる。静電気は湿度が低い条件で発生しやすいことから,このようなデータが得られたものである。温湿度管理が行き届いている現在のクリーンルームでは季節要因は無いが,素子を出荷したあとの破壊については,やはりこのような季節要因を考えなければならない。

半導体デバイスの静電気障害

半導体デバイスの静電気障害

半導体関係の静電気障害は,
① ウェハからパッケージに詰め込むまでの段階での障害
② パッケージに詰め込んで素子になった状態での障害
③ 素子を出荷して回路に組み込む際,あるいは完成した回路での障害
に分かれる。

①は加工過程でのウェハの帯電による破壊,帯電ウェハ表面へのほこりの付着などの障害である。ウェハを輸送するためのケース類などの帯電が原因になる場合もある。ウェハ表面に付着したほこりの粒子が電流の流れる微細な回路パターンの間に付着すると,線間の耐圧が低くなり,静電気放電に対する耐性が弱まるという報告もある。

②はパッケージ表面の帯電や,付近の帯電体などを原因とする放電による破壊があげられる。誘導帯電でIC回路が帯電し,接地された物体との間で静電気放電が起こることも考えられる。作業者の帯電も大きな原因の一つである。

③は作業者や保管袋などの帯電による素子の破壊があげられる。静電気放電を起こす帯電体としては,作業する人間が一番可能性が高い。 ICの静電気放電による影響は,完全な破壊(動作停止)から動作はするが特性が劣化する状態までいろいろある。

 ESDによる破壊(電圧破壊と電流破壊)

ESD((Electro-Static Discharge)とは静電気放電のことであり、半導体素子の静電気障害が起こる原因として最も多いのは静電気放電であろう。小さな静電気放電が起こっても半導体素子の破壊の原因となる。帯電体が素子の端子に接近する状況が作られると放電が起こり,素子の内部回路に急激な放電電流が流れ,素子は破壊される。帯電体が導体の場合には一般に放電電荷量が多く,破壊の程度も大きい。

充電されたコンデンサを帯電体に見立て,コンデンサからの放電電流によって素子の破壊がどのように起こるかを調べる実験が各所で行われた。図4.26はその方法を示す。コンデンサとして静電容量の異なるものを用意して行った実験では,素子が破壊する放電の条件はコンデンサの静電容量によって変化する。

半導体の破壊実験

半導体の破壊実験

コンデンサの静電容量が大きいとコンデンサの端子電圧が低い状態の放電で破壊するが,容量が小さくなると破壊する電圧が高くなる。
これは,コンデンサが同じ電圧に充電されていても,その容量の大小によって放電電荷量が異なるためである。端子間電圧が同じ場合,容量の大きいコンデンサでは蓄積されている電荷量が多く,反対に小さいコンデンサでは電荷量が少ない。その結果,容量の大きいコンデンサの場合は,放電で素子に流れる電流も多く,素子に与えるダメージも大きいため,低い端子電圧で破壊する。

 

容量の小さいコンデンサでは逆に高い電圧に充電していないと破壊しにくい。
この現象の機構を考察すると,容量の大きいコンデンサの場合は,静電気放電によって多量に流れる電流による発熱で破壊すると理解でき,これを電流破壊という。容量の小さいコンデンサの場合は高い電圧にならないと破壊しない。

そこで,この場合の破壊を電圧破壊という。この場合でも結局は,静電気放電が起こる時に流れる電流の発熱作用で破壊するのであるが,その引き金になるのは接合部などに加わる高い電圧であるためである。
静電気放電はさまざまな状況で起こり,静電気が発生する状況にあれば半導体素が被壊する危険は随所に存在すると言ってよい。

 

誘導電流(急激な外部電界の変化)

誘導電流による破壊は,放電などによる直接的な電流による破壊ではなく,外部電荷による静電誘導で半導体素子内部の回路に流れる電流が原因となる場合である。図4.27に示すように,半導体素子に帯電体が急速に接近すると,帯電体に近い部分の端子には帯電体の電荷と逆極性の電荷が増加してゆく。この現象は内部の電荷が移動して起こるため,内部回路に電流が流れることになる。

過渡電流

過渡電流

帯電体が離れて行くときには,逆方向に電流が流れる。電流は帯電体が動いている間中、流れ,その動きが止まるととまる。このように内部回路に流れる電流は過渡的であり,帯電体の電荷が多く動きが速いほど,また半導体素子に対して近距離に接近するほど,電流値は大きくなる。このような誘導電流が回路内部に流れるとき,回路に電流の流れにくい部分があれば,そこには電位差が生じる。接合や高抵抗部分には瞬間的に高い電位差が生じ,破壊されることがありうる。

 

破壊の原因となる帯電体

半導体素子を破壊に導き障害事故を発生させる元になる帯電体としては,作業者,装置類,半導体素子自身が考えられる。以下に順に説明する。

人 体

すでに何度か述べているように,人体は静電気障害の原因としては有力な帯電体になりうる。人体は導体に近い特性を持っているため,帯電した人体からの放電では多量の電流が流れ,絶縁体の場合より放電エネルギーが大きくなる。
帯電した作業者が指などを不用意に半導体素子に接近させると,素子の端子と指との間で静電気放電が起こる。
人体は作業中に帯電しやすく,その電位が容易に数千ボルトから1万ボルト以上にもなる。破壊は工程の初期から最終段階まで,あるいは回路に組み込む段階でも生じる。そこで作業者の電位を下げる工夫をする必要が生じる。

装置類

製造プロセスで使用される機械類がもし接地されていないと,これらは帯電し半導体素子の破壊の原因になりうる。

絶縁体

ウェハの運搬用の箱や完成品の輸送のための容器など,さまざまな用途に使われる絶縁材料の帯電に注意する必要がある。

 

半導体素子本体

半導体素子の回路が帯電し,素子の端子が近くの導体に接近するときに放電し,内部回路が破壊する可能性があるが,これは内部回路の静電容量が大きくないと起こりにくい。

樹脂でできているパッケージの帯電は,IC素子が装置上を滑る場合,印刷する場合などに起こる。パッケージが帯電すると素子内部に電界を作用させる。また,パッケージ表面に何かが接触して電荷分離が起こった状態で接触物体が急に離れると,内部電界の急激な変化をもたらし,誘導電流が流れるため回路の破壊が起こる。

 

 エアロゾル(微粒子)の付着

空気中には衣服から出る繊維のほこりや人体表皮の脱落細胞,花粉,地表から風で巻き上げられた無機・有機の微粉など,微細な粒子(エアロゾル)が存在する。エアロゾルは大なり小なり帯電しており,帯電体があるとこれに選択的に吸引され付着する。テレビのブラウン管表面が異常に汚れるのもこれが原因である。

半導体素子の製造過程でウェハが帯電しているとエアロゾルが付着しやすくなる。ウェハに空気流が到達すると空気流はウェハに衝突し向きを変えて流れて行くが,ウェハ表面が帯電していると,エアロゾルは引きつけられてウェハ表面に衝突し,付着するものが増えてくる。

このようにしてウェハ表面のICパターンに微細な粒子が付着し,回路の異なった電位になる部分の間に入ったり,あるいはブリッジしてしまうと,耐圧が下がり,回路の破壊や特性の劣化につながると言われている。
図4.28に半導体素子の破壊原因をまとめて示す。

半導体素子の破壊原因

半導体素子の破壊原因

 

関連記事:電子機器の静電気トラブル

 

 液晶関係の静電気障害

液晶パネルの製造プロセスで,静電気障害が目立っている。液晶パネルに使用するガラスの接触帯電,およびラビング処理時の帯電によって,トランジスタの破壊が起こるケースが多い。普通は接触だけでは大した帯電量にならないはずであるが,表面の平滑度の高いガラスが真空吸引などの方法で他の物体表面とよく密着すると,高い電荷密度に帯電し障害に結びつく(図4.8)
最近はパネル面積が大きくなる傾向にあり,真空吸引されて密着したガラス板を剥がす際に破損する障害も発生している。

ガラスの密着による帯電と障害

ガラスの密着による帯電と障害

 

 計測機器,電子・情報機器の静電気障害

昔から,電流や電圧を測定するためのメータで,前面のガラスが帯電すると指針が帯電部分に引っ張られて,正しい指示値を示さなくなることが経験されていた。メータパネルの汚れを拭いたときによく起こる現象である。この種の現象は液晶パネルにも見られ,表面を摩擦すると液晶の表示が乱れることがある。

一般にデジタル電子機器は電界および電磁波のノイズに弱く,静電気放電によって発生するこの種のノイズ(静電気ノイズ)によって誤動作することがある。例えば,冬の乾燥期にスチール机に向かって座りながら急に立ち上がるとき,机に手などの人体の一部が接近していると強い静電気放電が起こる。このような場合,机の上でワープロやパソコンを使っていると,その画面が突然変わったり,全く動かなくなってしまうことは良く経験するところである。

 

このように装置の外部で起こる静電気放電による障害では,装置が壊れてしまうことはほとんど無いが,動作そのものは影響を受けることがあり,ときにはリセットしないと動作しなくなってしまう。工業用ロボットにこのような誤動作が発生すると大変なことになる。

このように,オフィスにある情報機器,感度の良い計測器,コンピュータ制御で動作する装置類などが静電気放電によるノイズで誤動作する可能性は随所に存在する。
コピー機では紙が帯電して揃えることができなくなったり,コピーをとる人が感電したりする障害がよくあったが,現在の機械では内部で除電しているためこの種の障害は減っている。プリンタでも同じようなことが起こるため,除電装置を備えたものが多い。

関連記事:工場での静電気トラブル

 

 その他の生産分野の静電気障害

さまざまな製造業や作業場で静電障害が経験されている。塗装ではシンナーの着火の危険性がある。有機溶媒を使った糊付けの作業も同様な危険がある。粉体を製造する工程で,粉砕による帯電現象が確認されている。多くの化学工場などで,反応原料を輸送したり混合したりする工程では,帯電による静電気放電で大きな爆発事故が起こることがある。有機溶剤を用いた洗浄工程での発火事故も報告されている。

医療関係では,手術に使う麻酔薬に可燃性のものがあるため,昔から手術室の床には水をまいたりして導電性にし,障害を防いでいた。現在では導電性の床材料が使われるようになっている。

同じ医療関係で,酸素タンクや酸素テントを用いる治療では,着衣などを天然の繊維のものに限るように決めている。空気中であれば着衣の帯電で起こる静電気放電で着衣が発火することはないが,酸素中では容易に着衣に着火させ,患者が火達磨になる大事故に結びつく。ある病院では,患者が高圧酸素タンクに入る際,着衣は天然繊維のものを着用していたが,内部が寒いと考えてか,化繊でできた毛布を持ち込んだために事故が起きた。患者の入ったタンク内部で爆発が起こり,外部で監視していた人がこの事故に巻き込まれて亡くなった。

宇宙開発に使う液体ロケットは,酸素と水素を使用するため作業中に静電気放電が起こると極めて危険である。そのため燃料を扱う作業は,帯電防止機能を持った作業服と靴を着用して行っている。

原子炉の窓が原因不明でヒビが入り割れてしまう事故が多発したことがある。原子炉から漏れてくる放射線を吸収して窓のガラスが強烈に帯電し,内部で絶縁破壊が起こってヒビが入ることがわかった。

交流の電圧を変換する変圧器で高電圧の大型のものには,絶縁性の高い油を内部で循環させ冷却しているものがある。この絶縁油入り変圧器の油が流動帯電で帯電し,静電気放電を起こして油の絶縁破壊を起こすことが確認され,問題になっている。

大気中の微粒子が飛行中の航空機に衝突することにより航空機が帯電する。この結果,航空機の電位が上昇し,翼先端などから放電を起こし,通信のノイズになることがある。同様な理由でヘリコプターが帯電し,完全に着地する前に機体に触れると感電することがある。

関連記事:静電気による爆発、引火事故
*さらに詳しい内容は下記の文献を参考、願います。

参考文献:

静電気の基礎と帯電防止技術 著者:村田雄司 日刊工業新聞社
たのしい静電気  著者:高柳 真
静電気トラブル Q&A  監修:田畠泰幸

図解 静電気管理入門 著者:二澤 正行 工業調査会
静電気がわかる本―原理から障害防止ノウハウまで 高橋 雄造 (著)
電気機器の静電気対策 (設計技術シリーズ) 水野 彰 (監修)

 

 

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