静電気防止、静電気除電対策【図解】

静電気除電|静電気防止静電気理論

【図解】静電気防止、静電気除電対策

初心者向けの静電気防止、静電気除電対策のガイドとして下記のポイントをメインに解説しています。

・静電気防止、静電気除電の原理、仕組み

・静電気防止、静電気除電の違い

・静電気防止、静電気除電グッツ

工場、現場等での静電気除去対策にご活用ください。(^_^;)

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静電気防止、静電気除電とは

静電気による障害や事故は静電気の発生を抑えれば避けられるが,これは実際には困難であるため,発生した電荷を除去する“除電”が行われる。固体の内部や,液体,堆積した粉体などを除電するのは困難であるけれども,固体表面のような面を除電することはできる。

 

除電は,帯電電荷と逆極性の電荷を帯電部分に運び,電荷を中和して行う。逆極性の電荷を発生させるのに放射性同位元素を用いる方法、コロナ放電による方法がある。
除電器や除電バーは広く使われており,とくにプラスチック・シートなどを扱っている工場では,非常に多数の除電器が設置されている。ユーザーにとっても,除電器や除電バーを有効に投資効率よく使用するために,除電の基礎知識は有用である。

コロナ放電による除電方法

まず尖った針や細い線で生じるコロナ放電について述べる。コロナ放電は,イオン発生器として除電用だけでなくさまざまな静電気応用に使われているのでややくわしく説明しておこう。
図3.1は,直流電圧を印加した場合のコロナ放電の電流一電圧特性の例である。
電極はコロトロンで,直径60μmのタングステン線が張ってある。外側の接地缶電極の断面はコの字形で,その内寸の長辺は22mm,短辺は15mmで,長辺の1つが開口部であり,線は開口から5mm奥にある。本書で測定結果を示すコロトロンの缶の形状は,すべてこれと同じである。

コロナ放電 電流ー電圧特性

コロナ放電 電流ー電圧特性  画像出典先:静電気を科学する 高橋雄造 (著)

電圧Fをゼロから上げていきある電圧になると尖った針や細い線から設置電極へと電流Iが流れ始める。この電圧をコロナ開始電圧Viと名づける。さらに電圧を上げると電流は増大する。電流Iと電圧Vとの関係は,ほぼ次式で表される。
Aは電極の大きさ(針先端の曲率,線の径)や対向電極への距離などで決まる係数である。
I=A×(V-Vi)×V

要するに,コロナ電流Iは電圧Vの二次関数であり,ある電圧Viまではゼロでは立ち上がらないということである。図3.1は,有効長さが200mmの線の場合であり,電流は1mA以下である。線でなく針であれば,電流はずっと小さい。
ここで,尖った針や細い線に負の電圧をかける場合(負コロナ)と正の電圧をかける場合(正コロナ)との極性による違いに注目してほしい。コロナ開始電圧柘は負コロナの方が小さい。同じ電圧で比較すると,電流Iは負コロナの方が大きい。つまり,電荷供給能力は負コロナの方が優れている。コロナ放電を利用するのには高電圧電源が必要で,これは,大きさ,重量があり,高価であって,しかも安全に注意する必要がある。

 

高電圧電源を切り詰められるという意味では,負コロナの方が好ましい。正と負のどちらのコロナを使うにしても,大気中である限り(減圧するとRは低下する)数kVの高電圧電源が必要である。正コロナは電圧を上げると火花放電になりやすいのに対して負コロナは電圧の広い範囲で安定である。ふつうは,コロトロンにVの2倍程度の電圧を印加して使う。
しかし,負コロナには難点もある。そのひとつは,線電極上のコロナは均一でなく,局所的であることである。正コロナは,均一性が優れている。図3.2のコロナ放電光の写真から,これが明らかである。

正負コロナ放電 比較

正負コロナ放電 比較   画像出典先:静電気を科学する 高橋雄造 (著)

コロナ放電はオソン発生を伴う。負コロナは正コロナよりもオゾン発生が多いので,これも難点である。

能動除電

コロナ放電電極に高電圧電源を接続し,発生する電荷で除電することを能動除電という。後述のように,高電圧電源を使わない場合を受動除電と呼ぶ。
電荷発生用につくったコロナ放電電極をコロトロン(corotron)と呼ぶ。図3.5は複写機用のコロトロンで断面がコの字形の金属缶の中に細いタングステン線を張ってある。線でコロナ放電が起きて電荷が生じ,この電荷は接地した金属缶へ流れるだけでなく,コの字の開口から流出するので,開口部の外側近くに物体を置くと,これに電荷が到達する。図のコロトロンのコロナ電流一電圧特性は,図3.1に示してある。コロナ開始電圧Kは3~4kVであり,6kV程度の直流電源と組み合わせて使う。

コロトロン

コロトロン  画像出典先:静電気を科学する 高橋雄造 (著)

能動除電では,図3.1のような電流一電圧曲線上の任意の電圧を選ぶことができるから,供給する電荷の極性も量も自由に設定できる。除電対象物体が移動するような場合(プラスチック・シートをローラーで搬送するなど)でも,電荷供給量を多くして対応できる。

 

極性に関しては,除電対象物の帯電とは反対の極性の直流電圧をコロナ電極に印加する。正電荷と負電荷の両方を供給し,しかもその比(イオンバランス)を変えられる機種もある。帯電の状態に応じて電荷供給を自動制御することもでき,そのようなシステムも商品化されている。
コロナ電極に交流を印加することもある。商用交流(50HZか60HZ)では,前項で述べたような正コロナと負コロナが半サイクルごとにくりかえされる。このような交流除電器では,正電荷と負電荷の両方を供給できる。コロナ放電で生じた正電荷は対象物の負帯電部分に,負電荷は正帯電部分に引き寄せられて,それぞれ帯電を中和する。
能動除電では高電圧電源を使うので,もしコロナ放電でなく火花放電が起きると,電源から相当のエネルギーが注入され,場合によっては着火・爆発のもととなる。交流高電圧を印加する除電器であれば,漏洩変圧器を使うとか,変圧器と除電電極との間にコンデンサを入れるとかの方法により,注入エネルギーを制限できる。交流除電器でも,イオンバランスを考慮した製品もある。
除電すべき物体の面には,実際には電荷が均一に分布しているのではなく,いわば濃淡があり,正帯電と負帯電の箇所が両方ある場合が多い。正帯電部分と負帯電部分がある場合は,交流除電器が有効であると考えられる。
能動除電では,帯電電荷と逆極性の電荷を供給して中和するにとどまらず,逆極性に帯電させてしまうことがある。プラスチック・シートを除電するとき,シートの裏側に接地金属板などがあるとこれが起きやすく,注意が必要である。接地導体を覆っているプラスチック・シートに対して直流除電器を使うと除電というよりも除電器の極性の電荷をシートに与える帯電装置となる。

除電効果からすれば除電対象物のなるべく近くにするのが望ましい。しかし,10mm程度まで近づけるのは実際には困難な場合がある。
そこで,空気流で電荷を送る送風式除電器がある。
コロナ放電ではイオンが移動するので,イオンが空気にぶつかり空気流を生じる。これをコロナ風と呼ぶ、コロナ風の流速は,数m/s程度である。
送風式除電器では,コロナ風よりも強い風でイオンを送る。例を図3.6と図3.7に示しておく。

 

図3.6は,フアンの風にのって電荷が飛んでくる(イオン風が飛んでくる)ようになっていて,この風を除電対象物にあてる。図3.7では,チューブでイオンの風を除電対象物近くまで送る。この例では,幅の広いシート状の対象物をローラで搬送しながら除電するために,イオンの風の吹き出しを対象物の幅と同じ長さの棒に分布させている。除電器にはこのほかいろいろな種類や形状のものがあり,対象物などによって選んで使う。

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帯電物体の帯電電荷と帯電電位

能動除電の次に受動除電を述べる順序であるが,その前に帯電物体の帯電電荷と帯電電位について説明しておく必要がある。
図3.8のように,接地板の上に絶縁板があって,その上面が帯電しているものとする。帯電電荷が単位面積あたりqであるとする。絶縁板上面の対地静電容量が単位面積あたりcであると,絶縁板上面の帯電電位はq=c×V則から
V=q/c
である。ここでCは絶縁板(比誘電率ε,厚さt)をはさんだ平行板コンデンサを想定して
c=εo×ε/t
である。εoは真空の誘電率である。
実際に帯電電位を測定するときには,図3.8(a)のように測定器を上方から近づける。測定器のヘッドや筐体は接地物体と同じことであるから,これによる対地静電容量の増加分に応じて電位測定器直下の絶縁板の電位は低下する。この意味では電位測定器は測定対象物から距離を置く方が良いのだが,測定感度などからすれば近づけた方が良い。市販の電位測定器では,この距離が指定されていたり,所定の距離の位置になると音を発して合図するようになっていたりする。
帯電電荷は,絶縁板上に均一に分布しているとは限らない。この分布をくわしく調べるには,電位測定器のセンサを小型化して,対象物の直近に置く必要がある。分布を測定する分解能は,だいたいのところ,センサー対象物間の距離に等しい。たとえば,この距離が10mmであれば,10mmよりもずっと細かい模様の測定はできない。

帯電電位の測定

帯電電位の測定  画像出典先:静電気を科学する 高橋雄造 (著)

さて,図3.8(b)のように,帯電した絶縁板を持ち上げたらどうなるであろうか。
電荷がリークして逃げたりはしないと仮定する。絶縁板上面の対地静電容量(単位面積あたり)C’は空気ギャップの静電容量(単位面積あたり)Cdが直列Cに入るので

C’=1(1/C+1/Cd)

となって低下する。空気ギャップがdであるとすると

Cd=εo/d

である。このときの絶縁板上面の帯電電位v’は
v’=q/C’=q(1/C+1/Cd)=q/C+q/Cd=q/c(1+C/Cd)
となり,C/Cd倍だけ増加する。つまり,絶縁板を持ち上げると,帯電電位は上昇する。上昇分の倍率C/Cdは持ち上げた距離dこ比例するから,たとえば厚さ1mm以下の薄い絶縁シートを帯電させて数mmも持ち上げたりはがしたりすると,急激に電位が上昇する。
逆に,帯電した物体があったとして,これが接地物に近づく(対地静電容量が増加する)と電位は低下する。実際に,プラスチックの下敷きをこすって帯電させ,机(接地物とみなすことができる)からの距離を変えて電位を測定すると,これがよくわかる。受動除電では,帯電物体を接地物から遠ざけて孤立させることが肝要であること。
電位の上昇はエネルギー増加を意味する。帯電物体を接地板から持ち上げたりはがしたりするときには力学的仕事をするので,エネルギー増加になるのである。
帯電したシートが(クーロンカで)接地板にへばりついてはがれにくいというのは,よく経験することである。

 

受動除電と除電ブラシ

受動除電では,高電圧電源を使わずに,除電する対象物に“除電ブラシ”を近づけて置く。除電ブラシは,図3.9のように塗装用の刷毛の幅を広くしたような(数百mm)形状をしている。除電ブラシを自己放電式除電器と呼ぶこともある。

除電 ブラシ

除電ブラシの毛には細い金属線や力-ボン繊維を使用し,接地して使う帯電した物体は,接地に対して相当に高い電位になる。プラスチックの下敷きをこすっただけでも数kV~数十kVになる。数kV~数十kVの電圧がコロナ放電を発生させるのに十分であることは,図3.1の電圧と比較してもわかる。

 

帯電した物体に接地した除電ブラシを近づけると,この電位により除電ブラシの毛の先からコロナ放電が起きる。帯電物体の極性が正ならば,接地除電バーは帯電物体に対して相対的に負であるから,除電ブラシのコロナ放電は負コロナである。同様に,負に帯電した物体の近くに置いた除電ブラシからは正コロナが起きる。つまり,物体の帯電を中和する極性のコロナ放電が起きるのである。このように,除電ブラシは正に帯電した物体でも負に帯電した物体でも除電できるから,便利な存在である。
除電ブラシ自体は高電圧電源を持たず除電対象物の電位を利用するので,これによる除電方法を受動除電と呼ぶ。除電ブラシは安価であり,設置は簡単で,高価かつ安全への配慮の必要な高電圧電源を使用しない。 しかし,除電ブラシが有効であるためには条件がある。以下,これを述べよう。

除電ブラシが有効であるための条件

図3.10は,除電ブラシの動作範囲の電流一電圧特性の説明である。除電ブラシのコロナ放電は,帯電物体の電位付近で始まると考えてよい(正確には,除電ブラシ自体も接地物体であるから,これを帯電物体に近づけた分だけ帯電面の対地静電容量が増大して,帯電電位は低下する)。このときの電荷供給能力は,図3.10の太線のIの値である。帯電物体の電位は対地静電容量で変化するから,除電対象物をなるべく接地物体から遠ざけて(近接物体のない孤立した状態で),対地静電容量小・帯電電位大にして除電ブラシを設置するのが良い。

除電ブラスの電流 電圧特性

除電ブラスの電流 電圧特性  画像出典先:静電気を科学する 高橋雄造 (著)

除電ブラシのコロナ開始電圧

図3.11は,数種類の除電ブラシからのコロナ開始電圧を実測した結果である。除電ブラシが負である(除電対象物が正である)方が,極性がこれと逆である場合よりもコロナ開始電圧は低い。

 

すなわち除電ブラシは,正に帯電した物体を除電する方が,負に帯電した物体を除電するよりも,有効にはたらく(他の条件が同じであれば)。除電対象物と除電ブラシとの距離が小さい方が,コロナ開始電圧柘は低い。しかし,この距離を5mm以下にしてもViは1kV前後である。したがって,除電ブラシでは約1kV以下の除電はできない。除電でブラシ除電しても,約1kVの電位が残るのである。
以上述べた除電バーの動作範囲は,除電対象物と除電バーの運動がない場合である。プラスチック・シートをローラで搬送するときなどの場合,帯電物体(プラスチック・シート)が相当の高速で動く。コロナ放電で生じた電荷は電気力線に沿って動いて帯電面に到達する(その所要時間は電界強度とイオンの移動度で決まる)のであるが,帯電物体が高速で移動していると除電が間に合わない。こういう場合は,除電は図のVi以前で停止してしまう。このとき,除電したつもりでもViよりも高い電位が残るのである。

 

除電バーにはコロナ開始電圧Viが低いことが望まれる。そのため,除電バーの毛の先が鋭く尖った針状になるようにワイヤにはつとめて細い線を使い,その毛の先端の電界が非常に高くなるようにする。市販の除電バーには,直径約20μmのカーボン繊維を多数あわせて0.3mm程度の太さにして使用している例がある。
しかし,いくら細い毛を使っても,毛が多数密集していると,毛先の電界は低下する。葉が尖った針葉樹であっても,樹のシルエット(包絡線)は滑らかな線になってしまうのと同じである。

除電ブラシのこロナ放電光

除電ブラシのコロナ放電光

図3.12は,市販の除電バーを接地金属(平板)と対向させたときに起きるコロナ放電光を,超高感度カメラ(イメージインテンシファイヤを前置したカメラ)で記録した結果である。ワイヤの材質は放電特性に事実上影響しないが,図の例ではステンレスまたはカーボンである。図を見ると,バーのワイヤが均一に分布している均一型(b)よりも,ワイヤの束相互に間隔がある叢生型(a)の方が光点が多い。
叢生型の場合,光点はワイヤ長さの中途に多いことから,乱れてはみ出した“おくれ毛”の先から放電していることがわかる。同様に,非常に多数のワイヤを植えた密集型(c)で払放電は“おくれ毛”から生じる。またバーの端部で光点が多いことからも,ワイヤが密集していると電界強度が小さくなって放電が起きにくくなり,除電しないことがわかる。
これらの結果から,①“おくれ毛”がない理想の場合は,均一型が良く,ワイヤはまばらな方が良い,②実際には“おくれ毛”があるので叢生型が良い,と結論される。密集型はメリットがない。市販の除電バーには,材料に紙や布やゴムを使って鋸歯形にしたり,ワイヤ長さを大きくしたり(ワイヤは長くすると折れやすくなるであろう),さまざまなバラエティがあるが,これらには特別な利点はないと言うべきである。
実験でも,除電バーに負電圧を印加した方が低い電圧でも正電圧印加に比べて光点が多い。 したがって自己放電式の除電バーは,正帯電の物体に対しては負帯電の物体に対してよりも有効に作用することがわかる。
上述のように,除電バーには対地静電容量が小さいことが求められる。それゆえ,毛を支持するワイヤホルダーは金属でなくプラスチックを用いて,寸法(幅と厚み)は小さいほど好ましい。非常に多数の毛や,数十mm以上の長い毛を使うのは,対地静電容量を増やすことになるので,避けるべきであろう。

 

 

絶縁性シートの両面帯電と除電

プラスチック・シートなどの絶縁性シートでは,両面に帯電している場合がある。いくつものローラを通って何回も巻き取りと巻きほぐしされたシート面は,帯電しているのがふつうである。帯電電位計による測定では,表側だけでなく裏側の電荷もあわせて測定される。薄いシートの場介,少し離れたところ(距離はシート厚さの数十倍以上)に設置した電位計で測定されるのは,両面の帯電電荷の代数和で決まる電位である。 もし,表裏の帯電電荷が正負反対極性で絶対値が等しいならばにのような状態を電気二重層とい引,電位計で測定してもほとん
ど帯電していないのと同じ測定値になる。表裏逆極性に両面帯電したシートは,“電気力線が外に出ない”ので,電位計や除電バーにとって“帯電していないように見える”のである。
両面帯電したシートを除電するのは,容易ではない。同極性に両面帯電している場合,除電器(とくに能動除電器)は表だけでなく裏面の電荷まで除電するように電荷を供給しようとする。除電器から送られる電荷はシートを貫通して通り抜けることはできないから,シートの表に堆積する。こうして,表は過除電されはじめの帯電電荷とは逆の極性の電荷が堆積する。

シート裏側の帯電電荷はそのまま残る。結局,電気二重層が形成される。
表裏逆極性に両面帯電している場合は,上述のようなわけで,単に除電器をあてただけでは効果は非常に少ないと考えられる。
実際のシート面の帯電は,単一極性ではなく,帯電電荷密度も場所によって変化する。ちょうど,地図の上で場所によって標高差があり,海面より下のところもあって,海の中でも水深が場所によって異なるようなものである。こういう帯電物体を除電するのは,たやすいことではない。

以上に示した基本の考え方を基礎にして工夫すれば,状況に応じた改善法が見つかるであろう。
除電にはある程度の時間がかかる。除電器からの電荷供給量は無限大ではないから,帯電を中和するには時間がかかる。実際には,長尺シートを除電するときのように対象物が移動することが多い。移動速度が速い場合は,除電不十分になるし,逆の場合は過除電になって対象物を反対極性に帯電させる結果になる。
それゆえ,除電の実施にあたっては,実験的に決める必要がある。除電後の対象物の帯電状態を測定監視して除電器を制御すればよいが,大掛かりなシステムになり,設置スペースからも,費用の点でも実行できない場合が多い。除電はこのように,簡単で容易なことではなく,研究すべき事項が残っている。

 

湿度による除電

雰囲気の湿度を上げるのが静電気問題を生じにくくする方法である。静電気による障害や事故は冬に起きやすく,湿度の高い夏場には起きにくい。しかし,エアコンが普及した今日,冬には室内の相対湿度が40%以下になるのもふっうである。

シートやフィルムを扱う工場では,冬になって静電気問題で困ると,よく床に水を撒くのだという。簡単明瞭で安上がりな方法である、湿度を上げてリークを増すのは,表・裏とか,過除電とかいった面倒なことを考えなくてすむので,合理的である。

 

湿度が高くなくても,リークを増すことができれば除電になる。表面に界面活性剤を塗布して水分の作用によりリークを増すことは,第2章で述べた。導電性ないし半導電性の材料を塗布すれば,表面の水分の有無にかかわらず除電効果が大きくなる。
表面の導電性を増すだけでなく,材料のバルク(体積)の導電性を大きくすることも効果がある。カーボンブラックなどを練り込むのは,よく行われている。作業服とか繊維製品の場合,糸に一部分,金属線や導電性のものを使う場合がある。

材料の選択

接触・摩擦によって発生する電荷の量(時には極性も)は,接触し合う物体の材料を選ぶことによって変えることができる。これには,以下のようなことを参考にするとよい。

帯電列の利用

ある材料の帯電を問題にするとき,これと接触あるいは摩擦する材料として,帯電列上でできるだけ接近した位置にあるものを選ぶ。こうすると発生する電荷は,帯電列上で離れた位置にある材料同士の組み合わせの帯電上りも遙かに少なくなるはずである。例えば,ポリエチレンフィルムがナイロンと摩擦されるときよりも,ポリプロピレンと摩擦されるとき方が帯電量はずっと少なくなる(下図)。

帯電列の利用

図 帯電列の利用
 ポリエチレンはナイロンと摩擦されるよりも,帯電列上で近い位置にあるポリプロピレンと摩擦されるときの方が電荷発生量が少ない(Q1 < Q2)

 

同一物質どうしであれば,原則的には電荷は発生しない。
使用している材料は種々の特性を考慮して選択されているわけであるから,帯電傾向だけを考えて他の材料に変更するようなことができない場合が多い。そこで,部分だけ材料を変更して,発生する電荷を逆極性の発生電荷で中和する方法も用いられることがある。例えば,パイプで流送される粉体の帯電を軽減するために,パイプ材料を部分的に逆極性帯電を起こすような材料に入れ替える。このように帯電列を利用して材料を選ぶことは価値のある対策である。

 

しかし実際問題として,少なくともこの方法には二つの問題点が存在する。第1は,公表されている帯電列のデータが少なく,しかも新しいデータがないことである。したがって,帯電を少なくできる材料の組み合わせを選択するためには,過去に公表された帯電列を参考にしながら,自分で種々の材料を選んでテストして見る必要がある。ある材料について帯電のしやすさをテストすることは意外に難しい。

この材料のテストでは正確な接触あるいは摩擦帯電のテスト装置を作るよりも,実際に稼働している装置で今使用されている材料を別の材料に交換して見てその効果を判定することが,結局は一番よい方法である。しかし,これが容易にできない場合,あるいはもっと汎用性のある評価結果を得たい場合には,別の評価法が必要になる。

問題点の第2は,材料の帯電傾向がその表面の汚れや使用履歴によって変化することである。材料を交換した直後は予定通りの帯電状態になったとしてもしばらく使用しているうちに帯電状態が変わってしまうことがある。また,吸湿性の高い材料では,湿度による帯電特性の変動かある。表面の幾何学的な模様も帯電特性に影響する場合かある。そこで,材料のテストはこれらのことも考慮して行う必要がある。

電気的性質

一般に絶縁性の高い材料ほど帯電しやすいと考えられている。これは多くの場合、正しいと言えるが,条件によっては正しくないことがある。
同じ場所に繰り返し他の物体が接触する場合では,電荷は接触回数に対して増加し,やがて飽和する傾向を示す。このとき,各回の接触が全く正確に同じ接触点で行われているとすれば, 各接触点ごとに電荷が増加して行くためには,前の接触で発生した電荷が分離中に接触点から移動して,次の接触までの間に接触点の電荷密度が減少している必要がある。

帯電する物体が完全な絶縁物では,この電荷の移動は原理的に起こらないことになる実際の接触・摩擦が繰り返される場合には,いつも厳密に同じ場所で接触が起こるようなことは希で,少しずつ違った場所で接触している。そのため,繰り返し接触・摩擦による帯電量は,新たに接触される場所で発生する電荷によって増加して行く部分が多いと思われる。

しかし,これと同時に分離中の電荷の接触点からの移動が,長く続く電荷の増加現象を起こしている。そのため,多少電気伝導性があって,表面に発生した電荷が分離中に移動できるような材料ではなかなか帯電量が飽和せず接触や摩擦が繰り返されている間,いつまでも増加してゆく現象が観察される。

この現象によって,電気伝導性の見地からも材料の選択を考えなければならないことが理解される。すなわち接触・摩擦が繰り返し行われる状態では,絶縁体ではあっても電気伝導性がいくらか高い材料を使うことは好ましくない。この電気伝導性の程度を一般的な意味で定量的にいうことは難しいが,多少電荷が漏洩するような,絶縁体としてはあまり良質ではない物質で,むしろ帯電量が多くなる傾向にある。半導体や導体では電気伝導性が高すぎて,電荷は速やかに漏洩し帯電レベルがすぐゼロになってしまうことはいうまでもない。

表面の状態と材料の硬さ

接触、摩擦によって電荷が発生する現象では,接触面積が帯電量を決める重要な要因になる。この接触面積は,接触界面を挟んで電荷担体が移動できるような密接な接触状態にある面積のことーすなわち有効接触面積のことで,これには接触部分の表面の粗さや接触荷重が関係することは無論であるが,接触する物体の柔らかさにも大きく依存する。

材料表面はざらざらしているよりも鏡面に近いスムーズな面の方が接触帯電での帯電量は多くなる傾向にある。また,柔らかい材料では固い材料に比べて同じ荷重に対して有効接触面積が大きくなるから,帯電量も多くなりがちである。

以上のことを考慮すると,接触帯電量を少なくする目的では,粗いざらざらした面を持ち,硬度が高くてしかも帯電列上で接近した位置にある材料が望ましいことになる。

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