静電気除去の改善ノウハウ

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静電気トラブルの改善方法

静電気障害を防止する最良の方法は,静電気の発生を防止することであるのはいうまでもないが,多くの場合これは不可能である。二つの物体が接触するときには,必ず電荷の分離が起こり静電気が発生する。また,高分子材料に代表される絶縁物は,一度ため込んだ電荷を容易に放そうとはしないため,これらの材料の製造や加工時に発生した電荷が障害を起こすことが多い。

このように考えると静電気障害を防ぐことは不可能のように思えてくるが,先人の努力によって各種の有効な方法が考案され,実施されている。
静電気障害を防止するためには,前述のように電荷の発生を全く無くすことは無理としても,先ず電荷の発生を少しでも抑制することを考えるのが順序である。これが有効ではない場合,材料や雰囲気を通して電荷を速やかに逃がしてしまう方法が検討される。

さらに,帯電体の電荷と逆符号の電荷を作り出して,帯電体の電荷を中和する積極的な除電方法がある。これらの対策と同時に,静電荷の影響を少なくするように,物体の配置などを考慮することも重要な対策である。実際には,これらの対策の幾つかを併用して用い,静電気の障害を押さえ込む方法が一般的である。

さらに,静電気を逃がしたり,その影響を少なくする特性を持つ各種の材料が開発され,使用されている。コストの問題がこれらの材料を使用する場合の一つのネックになることが多いが,だんだんとその使用範囲が広がっているといえよう。

このように静電気対策の基本的考え方は確立されているといえるが,実際の対策はかなりケースバイケースであって,障害の発生場面に接しないと有効な対策を決められない場合が多い。しかし,どのケースにも通じる基本を知らないと,個々の対策で有効な方法を考え出すことができない。そのため,ここでは汎用性のある対策の原理とその概要を述べることにする。

電荷発生の抑制

 電荷抑制の考え方、方法

二つの物体が接触するときには,電荷の発生は本質的に避けられない。しかしその電荷の発生量は,接触する物質の組み合わせや接触する条件によって大きく異なる。このことを利用して,静電気障害が発生する現場で電荷の発生量を少なくし,事実上その影響を無くすことが可能な場合である。この方法はあくまでも電荷の発生量を零にできるものではないが,対策のまず第1番目として考慮し,試して見る価値のある方法である。

電荷漏洩の促進

 電荷の漏洩の考え方、方法

物体が連続して摩擦されるときなど,帯電原因が継続する場合には,電荷が増加しやがて飽和する。この飽和値はこれまで述べてきた電荷発生のさまざまな条件によって異なるが,もう一つ材料あるいは雰囲気を通しての電荷の漏洩(リーク)が大きく影響する。

漏洩しやすい材料では,電荷が発生している間に常に電荷の漏洩が起こっているから,帯電原囚が継続しているとき,帯電量の増加が緩慢で,しかも飽和値が小さくなる。帯電原因が除かれるとすぐ電荷は減衰し,なくなってしまう。
通常の高分子材料では,数分や数時間の程度ではほとんど電荷の減衰が起こらず,見ている間に減衰するような材料は,後述する特殊な処理を施さないと得られない。

除電装置によるイオンの中和

除電装置の考え方、方法

発生した電荷を強制的に除去するために除電装置が使われる。除電装置イオナイザーとも呼ばれているが,もともとの意味は異なる。除電装置はあくまでも除電する装置であって,イオナイザはイオン化する装置である。除電装置の原理が空気をイオン化させて除電を行うものであるため,混同され区別なくこの言葉が使われるようになっている。

除電装置(除電器)は,帯電体の電荷の極性と逆極性のイオン(ガス分子のイオン)を発生し,これによって帯電体電荷を中和する。除電器の歴史は古く,わが国でも明治37年の特許(米国人による出願)がある。

静電気対策の管理

これまで述べてきた対策を実施し成果を上げたとしても,その効果の維持管理が必要である。十分な対策ができたと考えて安心していると,下に示す例のようにさまざまな原因でまた静電気障害に見舞われることになりかねない。

①湿度などの外的要因による帯電量の変化

② 原材料のロットの違いなどによる組成・表面状態などの変化による帯電状態の変化

③ 工程スピードの変化などによる帯電状態の変化

④ IC内部回路の変化など,耐静電気特性の変化

⑤ 除電装置の電極の損耗,汚れ,高電圧ケーブルのリークによるイオ

ン発生特性の変化

⑥ 接地線の腐食による断線などの接地不良の発生

⑦ その他,静電気障害対策用機器・材料の性能劣化

⑧ 静電気対策のための作業手順の不履行

静電気障害は乾燥期に多いから,湿度の監視が必要である。考えられる限りでは同じ材料であっても,ロットが異なる場合などでは,帯電状態の変化に注意した方が無難である。③の帯電条件の変化に結びつくと思われる工程の変化は,十分注意すべきである。

ガソリンを積載したタンクローリーが町中で爆発事故を起こしたあるケースでは,作業者がガソリンの積載作業中に作業手順として決められていた接地を忘れたことが原因であった。同じタンクローリーの事故で,バルブの締め忘れで濡れたガソリンが飛沫となって静電気を持ち,発火したケースもある。これらは⑧の例である。

以上のような静電気に関する状況の変化に対応するために,工程中の帯電状態,あるいは必要な場合は,これに加えて最終製品の帯電状態の継続測定を行い,その変化をチェックできるようにすべきであろう。帯電状態は環境条件を含むさまざまな状況の変化とともに記録を残しておくと,対策をたてる上で有用なデータとなり得る。

静電気障害は困った存在であるが,この対策ばかりに時間と金を費やしているわけにはいかない。そこで多くの企業では,一応の対策の効果が得られるとそこでそれ以上の検討をすることを止めてしまう。そこでしばらくするとまた障害が発生したり,あるいは工程や素材の変化による障害発生の対策に手間取るケースが多い。

静電気問題は『なぜなぜ分析』等で真の原因が分かるまで追究しないと再度、同様な事故が発生する。

コロナ放電による除電

まず尖った針や細い線で生じるコロナ放電について述べる。コロナ放電は,イオン発生器として除電用だけでなくさまざまな静電気応用に使われているのでややくわしく説明しておこう。
図3.1は,直流電圧を印加した場合のコロナ放電の電流一電圧特性の例である。

電極はコロトロンで,直径60μmのタングステン線が張ってある。外側の接地缶電極の断面はコの字形で,その内寸の長辺は22mm,短辺は15mmで,長辺の1つが開口部であり,線は開口から5mm奥にある。本書で測定結果を示すコロトロンの缶の形状は,すべてこれと同じである。

コロナ放電 電流ー電圧特性

コロナ放電 電流ー電圧特性  画像出典先:静電気を科学する 高橋雄造 (著)

電圧Fをゼロから上げていきある電圧になると尖った針や細い線から設置電極へと電流Iが流れ始める。この電圧をコロナ開始電圧Viと名づける。さらに電圧を上げると電流は増大する。電流Iと電圧Vとの関係は,ほぼ次式で表される。
Aは電極の大きさ(針先端の曲率,線の径)や対向電極への距離などで決まる係数である。
I=A×(V-Vi)×V

要するに,コロナ電流Iは電圧Vの二次関数であり,ある電圧Viまではゼロでは立ち上がらないということである。図3.1は,有効長さが200mmの線の場合であり,電流は1mA以下である。線でなく針であれば,電流はずっと小さい。

ここで,尖った針や細い線に負の電圧をかける場合(負コロナ)と正の電圧をかける場合(正コロナ)との極性による違いに注目してほしい。コロナ開始電圧柘は負コロナの方が小さい。同じ電圧で比較すると,電流Iは負コロナの方が大きい。つまり,電荷供給能力は負コロナの方が優れている。コロナ放電を利用するのには高電圧電源が必要で,これは,大きさ,重量があり,高価であって,しかも安全に注意する必要がある。

高電圧電源を切り詰められるという意味では,負コロナの方が好ましい。正と負のどちらのコロナを使うにしても,大気中である限り(減圧するとRは低下する)数kVの高電圧電源が必要である。正コロナは電圧を上げると火花放電になりやすいのに対して負コロナは電圧の広い範囲で安定である。ふつうは,コロトロンにVの2倍程度の電圧を印加して使う。

しかし,負コロナには難点もある。そのひとつは,線電極上のコロナは均一でなく,局所的であることである。正コロナは,均一性が優れている。図3.2のコロナ放電光の写真から,これが明らかである。

正負コロナ放電 比較

正負コロナ放電 比較   画像出典先:静電気を科学する 高橋雄造 (著)

コロナ放電はオソン発生を伴う。負コロナは正コロナよりもオゾン発生が多いので,これも難点である。

能動除電

コロナ放電電極に高電圧電源を接続し,発生する電荷で除電することを能動除電という。後述のように,高電圧電源を使わない場合を受動除電と呼ぶ。

電荷発生用につくったコロナ放電電極をコロトロン(corotron)と呼ぶ。図3.5は複写機用のコロトロンで断面がコの字形の金属缶の中に細いタングステン線を張ってある。線でコロナ放電が起きて電荷が生じ,この電荷は接地した金属缶へ流れるだけでなく,コの字の開口から流出するので,開口部の外側近くに物体を置くと,これに電荷が到達する。図のコロトロンのコロナ電流一電圧特性は,図3.1に示してある。コロナ開始電圧Kは3~4kVであり,6kV程度の直流電源と組み合わせて使う。

コロトロン

コロトロン  画像出典先:静電気を科学する 高橋雄造 (著)

能動除電では,図3.1のような電流一電圧曲線上の任意の電圧を選ぶことができるから,供給する電荷の極性も量も自由に設定できる。除電対象物体が移動するような場合(プラスチック・シートをローラーで搬送するなど)でも,電荷供給量を多くして対応できる。

極性に関しては,除電対象物の帯電とは反対の極性の直流電圧をコロナ電極に印加する。正電荷と負電荷の両方を供給し,しかもその比(イオンバランス)を変えられる機種もある。帯電の状態に応じて電荷供給を自動制御することもでき,そのようなシステムも商品化されている。

コロナ電極に交流を印加することもある。商用交流(50HZか60HZ)では,前項で述べたような正コロナと負コロナが半サイクルごとにくりかえされる。このような交流除電器では,正電荷と負電荷の両方を供給できる。コロナ放電で生じた正電荷は対象物の負帯電部分に,負電荷は正帯電部分に引き寄せられて,それぞれ帯電を中和する。

能動除電では高電圧電源を使うので,もしコロナ放電でなく火花放電が起きると,電源から相当のエネルギーが注入され,場合によっては着火・爆発のもととなる。交流高電圧を印加する除電器であれば,漏洩変圧器を使うとか,変圧器と除電電極との間にコンデンサを入れるとかの方法により,注入エネルギーを制限できる。交流除電器でも,イオンバランスを考慮した製品もある。

除電すべき物体の面には,実際には電荷が均一に分布しているのではなく,いわば濃淡があり,正帯電と負帯電の箇所が両方ある場合が多い。正帯電部分と負帯電部分がある場合は,交流除電器が有効であると考えられる。
能動除電では,帯電電荷と逆極性の電荷を供給して中和するにとどまらず,逆極性に帯電させてしまうことがある。プラスチック・シートを除電するとき,シートの裏側に接地金属板などがあるとこれが起きやすく,注意が必要である。接地導体を覆っているプラスチック・シートに対して直流除電器を使うと除電というよりも除電器の極性の電荷をシートに与える帯電装置となる。

除電効果からすれば除電対象物のなるべく近くにするのが望ましい。しかし,10mm程度まで近づけるのは実際には困難な場合がある。
そこで,空気流で電荷を送る送風式除電器がある。
コロナ放電ではイオンが移動するので,イオンが空気にぶつかり空気流を生じる。これをコロナ風と呼ぶ、コロナ風の流速は,数m/s程度である。
送風式除電器では,コロナ風よりも強い風でイオンを送る。例を図3.6と図3.7に示しておく。

図3.6は,フアンの風にのって電荷が飛んでくる(イオン風が飛んでくる)ようになっていて,この風を除電対象物にあてる。図3.7では,チューブでイオンの風を除電対象物近くまで送る。この例では,幅の広いシート状の対象物をローラで搬送しながら除電するために,イオンの風の吹き出しを対象物の幅と同じ長さの棒に分布させている。除電器にはこのほかいろいろな種類や形状のものがあり,対象物などによって選んで使う。

関連記事:イオナイザーの正しい選び方、使い方 

帯電物体の帯電電荷と帯電電位

受動除電を述べる前に帯電物体の帯電電荷帯電電位について説明しておく必要がある。

図3.8のように,接地板の上に絶縁板があって,その上面が帯電しているものとする。帯電電荷が単位面積あたりqであるとする。絶縁板上面の対地静電容量が単位面積あたりcであると,絶縁板上面の帯電電位はq=c×V則から
V=q/c
である。ここでCは絶縁板(比誘電率ε,厚さt)をはさんだ平行板コンデンサを想定して
c=εo×ε/t
である。εoは真空の誘電率である。
実際に帯電電位を測定するときには,図3.8(a)のように測定器を上方から近づける。測定器のヘッドや筐体は接地物体と同じことであるから,これによる対地静電容量の増加分に応じて電位測定器直下の絶縁板の電位は低下する。この意味では電位測定器は測定対象物から距離を置く方が良いのだが,測定感度などからすれば近づけた方が良い。市販の電位測定器では,この距離が指定されていたり,所定の距離の位置になると音を発して合図するようになっていたりする。

帯電電荷は,絶縁板上に均一に分布しているとは限らない。この分布をくわしく調べるには,電位測定器のセンサを小型化して,対象物の直近に置く必要がある。分布を測定する分解能は,だいたいのところ,センサー対象物間の距離に等しい。たとえば,この距離が10mmであれば,10mmよりもずっと細かい模様の測定はできない。

帯電電位の測定

帯電電位の測定  画像出典先:静電気を科学する 高橋雄造 (著)

さて,図3.8(b)のように,帯電した絶縁板を持ち上げたらどうなるであろうか。
電荷がリークして逃げたりはしないと仮定する。絶縁板上面の対地静電容量(単位面積あたり)C’は空気ギャップの静電容量(単位面積あたり)Cdが直列Cに入るので

C’=1(1/C+1/Cd)

となって低下する。空気ギャップがdであるとすると

Cd=εo/d

である。このときの絶縁板上面の帯電電位v’は
v’=q/C’=q(1/C+1/Cd)=q/C+q/Cd=q/c(1+C/Cd)
となり,C/Cd倍だけ増加する。つまり,絶縁板を持ち上げると,帯電電位は上昇する。上昇分の倍率C/Cdは持ち上げた距離dこ比例するから,たとえば厚さ1mm以下の薄い絶縁シートを帯電させて数mmも持ち上げたりはがしたりすると,急激に電位が上昇する。

逆に,帯電した物体があったとして,これが接地物に近づく(対地静電容量が増加する)と電位は低下する。実際に,プラスチックの下敷きをこすって帯電させ,机(接地物とみなすことができる)からの距離を変えて電位を測定すると,これがよくわかる。受動除電では,帯電物体を接地物から遠ざけて孤立させることが肝要であること。

電位の上昇はエネルギー増加を意味する。帯電物体を接地板から持ち上げたりはがしたりするときには力学的仕事をするので,エネルギー増加になるのである。
帯電したシートが(クーロンカで)接地板にへばりついてはがれにくいというのは,よく経験することである。

受動除電と除電ブラシ

受動除電では,高電圧電源を使わずに,除電する対象物に“除電ブラシ”を近づけて置く。除電ブラシは,図3.9のように塗装用の刷毛の幅を広くしたような(数百mm)形状をしている。除電ブラシを自己放電式除電器と呼ぶこともある。

除電 ブラシ

図3.9 除電 ブラシ

除電ブラシの毛には細い金属線や力-ボン繊維を使用し,接地して使う。帯電した物体は,接地に対して相当に高い電位になる。プラスチックの下敷きをこすっただけでも数kV~数十kVになる。数kV~数十kVの電圧がコロナ放電を発生させるのに十分であることは,図3.1の電圧と比較してもわかる。

帯電した物体に接地した除電ブラシを近づけると,この電位により除電ブラシの毛の先からコロナ放電が起きる。帯電物体の極性が正ならば,接地除電バーは帯電物体に対して相対的に負であるから,除電ブラシのコロナ放電は負コロナである。同様に,負に帯電した物体の近くに置いた除電ブラシからは正コロナが起きる。つまり,物体の帯電を中和する極性のコロナ放電が起きるのである。このように,除電ブラシは正に帯電した物体でも負に帯電した物体でも除電できるから,便利な存在である。

除電ブラシ自体は高電圧電源を持たず除電対象物の電位を利用するので,これによる除電方法を受動除電と呼ぶ。除電ブラシは安価であり,設置は簡単で,高価かつ安全への配慮の必要な高電圧電源を使用しない。 しかし,除電ブラシが有効であるためには条件がある。以下,これを述べよう。

除電ブラシが有効であるための条件

図3.10は,除電ブラシの動作範囲の電流一電圧特性の説明である。除電ブラシのコロナ放電は,帯電物体の電位付近で始まると考えてよい(正確には,除電ブラシ自体も接地物体であるから,これを帯電物体に近づけた分だけ帯電面の対地静電容量が増大して,帯電電位は低下する)。このときの電荷供給能力は,図3.10の太線のIの値である。帯電物体の電位は対地静電容量で変化するから,除電対象物をなるべく接地物体から遠ざけて(近接物体のない孤立した状態で),対地静電容量小・帯電電位大にして除電ブラシを設置するのが良い。

除電ブラスの電流 電圧特性

除電ブラスの電流 電圧特性  画像出典先:静電気を科学する 高橋雄造 (著)

除電ブラシのコロナ開始電圧

図3.11は,数種類の除電ブラシからのコロナ開始電圧を実測した結果である。除電ブラシが負である(除電対象物が正である)方が,極性がこれと逆である場合よりもコロナ開始電圧は低い。

すなわち除電ブラシは,正に帯電した物体を除電する方が,負に帯電した物体を除電するよりも,有効にはたらく(他の条件が同じであれば)。除電対象物と除電ブラシとの距離が小さい方が,コロナ開始電圧柘は低い。しかし,この距離を5mm以下にしてもViは1kV前後である。したがって,除電ブラシでは約1kV以下の除電はできない。除電でブラシ除電しても,約1kVの電位が残るのである。

以上述べた除電バーの動作範囲は,除電対象物と除電バーの運動がない場合である。プラスチック・シートをローラで搬送するときなどの場合,帯電物体(プラスチック・シート)が相当の高速で動く。コロナ放電で生じた電荷は電気力線に沿って動いて帯電面に到達する(その所要時間は電界強度とイオンの移動度で決まる)のであるが,帯電物体が高速で移動していると除電が間に合わない。こういう場合は,除電は図のVi以前で停止してしまう。このとき,除電したつもりでもViよりも高い電位が残るのである。

除電バーにはコロナ開始電圧Viが低いことが望まれる。そのため,除電バーの毛の先が鋭く尖った針状になるようにワイヤにはつとめて細い線を使い,その毛の先端の電界が非常に高くなるようにする。市販の除電バーには,直径約20μmのカーボン繊維を多数あわせて0.3mm程度の太さにして使用している例がある。
しかし,いくら細い毛を使っても,毛が多数密集していると,毛先の電界は低下する。葉が尖った針葉樹であっても,樹のシルエット(包絡線)は滑らかな線になってしまうのと同じである。

除電ブラシのこロナ放電光

除電ブラシのこロナ放電光

図3.12は,市販の除電バーを接地金属(平板)と対向させたときに起きるコロナ放電光を,超高感度カメラ(イメージインテンシファイヤを前置したカメラ)で記録した結果である。ワイヤの材質は放電特性に事実上影響しないが,図の例ではステンレスまたはカーボンである。図を見ると,バーのワイヤが均一に分布している均一型(b)よりも,ワイヤの束相互に間隔がある叢生型(a)の方が光点が多い。

叢生型の場合,光点はワイヤ長さの中途に多いことから,乱れてはみ出した“おくれ毛”の先から放電していることがわかる。同様に,非常に多数のワイヤを植えた密集型(c)で払放電は“おくれ毛”から生じる。またバーの端部で光点が多いことからも,ワイヤが密集していると電界強度が小さくなって放電が起きにくくなり,除電しないことがわかる。

これらの結果から,①“おくれ毛”がない理想の場合は,均一型が良く,ワイヤはまばらな方が良い,②実際には“おくれ毛”があるので叢生型が良い,と結論される。密集型はメリットがない。市販の除電バーには,材料に紙や布やゴムを使って鋸歯形にしたり,ワイヤ長さを大きくしたり(ワイヤは長くすると折れやすくなるであろう),さまざまなバラエティがあるが,これらには特別な利点はないと言うべきである。

実験でも,除電バーに負電圧を印加した方が低い電圧でも正電圧印加に比べて光点が多い。 したがって自己放電式の除電バーは,正帯電の物体に対しては負帯電の物体に対してよりも有効に作用することがわかる。

上述のように,除電バーには対地静電容量が小さいことが求められる。それゆえ,毛を支持するワイヤホルダーは金属でなくプラスチックを用いて,寸法(幅と厚み)は小さいほど好ましい。非常に多数の毛や,数十mm以上の長い毛を使うのは,対地静電容量を増やすことになるので,避けるべきであろう。

絶縁性シートの両面帯電と除電

プラスチック・シートなどの絶縁性シートでは,両面に帯電している場合がある。いくつものローラを通って何回も巻き取りと巻きほぐしされたシート面は,帯電しているのがふつうである。帯電電位計による測定では,表側だけでなく裏側の電荷もあわせて測定される。薄いシートの場介,少し離れたところ(距離はシート厚さの数十倍以上)に設置した電位計で測定されるのは,両面の帯電電荷の代数和で決まる電位である。

もし,表裏の帯電電荷が正負反対極性で絶対値が等しいならばにのような状態を電気二重層とい引,電位計で測定してもほとんど帯電していないのと同じ測定値になる。表裏逆極性に両面帯電したシートは,“電気力線が外に出ない”ので,電位計や除電バーにとって“帯電していないように見える”のである。

両面帯電したシートを除電するのは,容易ではない。同極性に両面帯電している場合,除電器(とくに能動除電器)は表だけでなく裏面の電荷まで除電するように電荷を供給しようとする。除電器から送られる電荷はシートを貫通して通り抜けることはできないから,シートの表に堆積する。こうして,表は過除電されはじめの帯電電荷とは逆の極性の電荷が堆積する。

シート裏側の帯電電荷はそのまま残る。結局,電気二重層が形成される。
表裏逆極性に両面帯電している場合は,上述のようなわけで,単に除電器をあてただけでは効果は非常に少ないと考えられる。
実際のシート面の帯電は,単一極性ではなく,帯電電荷密度も場所によって変化する。ちょうど,地図の上で場所によって標高差があり,海面より下のところもあって,海の中でも水深が場所によって異なるようなものである。こういう帯電物体を除電するのは,たやすいことではない。

以上に示した基本の考え方を基礎にして工夫すれば,状況に応じた改善法が見つかるであろう。
除電にはある程度の時間がかかる。除電器からの電荷供給量は無限大ではないから,帯電を中和するには時間がかかる。実際には,長尺シートを除電するときのように対象物が移動することが多い。移動速度が速い場合は,除電不十分になるし,逆の場合は過除電になって対象物を反対極性に帯電させる結果になる。

それゆえ,除電の実施にあたっては,実験的に決める必要がある。除電後の対象物の帯電状態を測定監視して除電器を制御すればよいが,大掛かりなシステムになり,設置スペースからも,費用の点でも実行できない場合が多い。除電はこのように,簡単で容易なことではなく,研究すべき事項が残っている。

湿度による除電

雰囲気の湿度を上げるのが静電気問題を生じにくくする方法である。静電気による障害や事故は冬に起きやすく,湿度の高い夏場には起きにくい。しかし,エアコンが普及した今日,冬には室内の相対湿度が40%以下になるのもふつうである。

シートやフィルムを扱う工場では,冬になって静電気問題で困ると,よく床に水を撒くのだという。簡単明瞭で安上がりな方法である、湿度を上げてリークを増すのは,表・裏とか,過除電とかいった面倒なことを考えなくてすむので,合理的である。

湿度が高くなくても,リークを増すことができれば除電になる。表面に界面活性剤を塗布して水分の作用によりリークを増すことは,第2章で述べた。導電性ないし半導電性の材料を塗布すれば,表面の水分の有無にかかわらず除電効果が大きくなる。

表面の導電性を増すだけでなく,材料のバルク(体積)の導電性を大きくすることも効果がある。カーボンブラックなどを練り込むのは,よく行われている。作業服とか繊維製品の場合,糸に一部分,金属線や導電性のものを使う場合がある。

しかし、こういった塗布,練り込み,織り込みといった方法によると,もとの材料の静電気特性以外の性質を変えてしまうおそれがあり、注意が必要である。

関連記事:除電用加湿器の使い方、選び方

*さらに詳しい内容は下記の文献を参考に願います。

参考文献:

静電気の基礎と帯電防止技術 著者:村田雄司 日刊工業新聞社
たのしい静電気  著者:高柳 真
静電気トラブル Q&A  監修:田畠泰幸

図解 静電気管理入門 著者:二澤 正行 工業調査会
静電気がわかる本―原理から障害防止ノウハウまで 高橋 雄造 (著)
電気機器の静電気対策 (設計技術シリーズ) 水野 彰 (監修)

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閲覧、有難うございます。クレインテクノの門眞と申します。
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